星に願いを_04
「晃牙くん、見た?! 今の流れ星」「あ? 見てねえよつうか流れ星なんてガキじゃあるまいし……」
冬の空。満天の星空。やけに多い荷物を持たされた俺は、彼女の後ろをしぶしぶと歩く。重い物を持つのが趣味ってわけじゃねえ。でもおそらく仕事を抱えるのが趣味になりつつある彼女に重い物を持たせるほど、男が廃っているわけでもない。
つうか何人分の衣装がはいってんだよ。これ全部補修すんのか? お前は街の補修屋さんか?
見知らぬ奴らの衣装を持つのも気分が良い物ではないし、重いし寒いわでとてもはしゃげる気分ではなかった。しかし鬱屈としたそんな気分も、はしゃぎ回る彼女を見ればうすらと和らいだ気がした。
「夢がないなあ晃牙くんは」
「うるせえよ。じゃあなにか、お前はお星様にお願い事でもしたのかよ」
「へへ、したよー」
勿論! と彼女は胸を張る。揺れる鞄にキーホルダーがちりんと音を鳴らした。寒さで冷やされた頬は赤く、彼女がはしゃぎ回る度、目の前の空気が白く曇った。
「何を願ったんだよ」
質問としては、至極当然な流れだったと思う。彼女はそんな俺の言葉に嬉しそうに顔を綻ばせながら「ひっみつー」と言葉を跳ね上げた。
「知ってた? 晃牙くん。願い事、口にしたら叶わなくなるんだって」
「あーはいはいそうですか」
「うわつれないなあ」
「うっせえ、早く帰るぞ」
「はあい」
そうして二人で家路に急ぐ。辺りには夕食の美味しそうな香りが漂う。「お腹がすいたねえ」と微笑む彼女の顔が次第に夜闇に溶けて――。
晃牙はそこで、目を覚ました。
「……なんだってんだ、今の……」
ただの夢にしては鮮明すぎる。尋常じゃない汗と、どうやらうなされていたらしく布団はベッドの下へと落ちていた。起こしてしまったのかレオンが心配そうにこちらへと寄ってきていて、汗まみれの頬をぺろりと舐めあげた。まだ輪郭がぼやけた意識を抱えながら晃牙はレオンをベッドから下ろし、そして落ちている布団を引っ張り上げる。引っ張り上げながらも、先程の夢を反芻する。
俺はあれを知っている。
いつだ、一体いつの話なんだ。
ぐるぐると胃が気持ち悪い。頭が鈍く痛む。枕元に置いておいたミネラルウォーターを飲めば、夜の空気に冷やされたそれは生き物のように喉元を通り過ぎて胃に溜まった。顔を上げて前を見れば、暗闇に満たされた見慣れた部屋が見える。
あの夢は今日の話か? いやでもあそこにはアドニスはいなかった。
気持ち悪い。背中に得体の知れないモヤモヤがのしかかっているような気がして慌てて身を倒し布団に背中を擦りつける。溜まった水が胃の中で揺れる。床に下ろしたはずのレオンはどうやらまたベッドに乗ってきたらしく、晃牙の首元に寄るとその場に伏せだした。本当なら自分の寝床で寝て欲しかったのだけれど、拭いきれない不気味な感覚に、今日だけは、と彼を布団の中に招く。
布団の中で動く体温を感じながら、今も仔細まで思い出せる夢の内容を脳裏に浮かべた。隣に居たのはアイツで、喋っていたのは紛う事なき俺で。一体どうなってやがる。ただの夢なのか? これは。
次第に微睡む意識に逆らえず俺は目を閉じた。眠りに落ちる瞬間、今日の帰り道の強ばった顔で夢を語る彼女が一瞬、浮かんだ気がした。