嘘つきは誰だ_11

 話したいことがあります、とだけ打ったメッセージには、すぐに既読がついた。昔ーーというより記憶が戻った当初ーーは絵文字やスタンプを交えた華やかなメッセージだったのに、先ほど打ったメッセージのあまりの淡白さに思わず苦笑が浮かぶ。絵文字やスタンプでゴテゴテしく飾る内容ではないものの、もう少し愛嬌のあるメッセージの方が良かっただろうか。そう思いながら何気なく過去の履歴を漁っていると、『私』のメッセージはほとんど絵文字やスタンプなど使われていないことに気がついた。

 もしかしてこういうところも戻っているのだろうか。いいや、考えるのはやめておこう。既読がついてもしばらく返答がなかったので、私は携帯の液晶を落としてそのまま布団に投げる。ぼすん、という音と共に落ちた携帯を見つめて一つため息。そのまま机へと向かい引き出しの奥底に封印していた手帳を取り出して、ページをめくる。

『誰かを贔屓しない』

 初見ではしっくりこなかったその意味が、今ではわかるようになってきた。それは戻ってきたのか、それともプロデュース科としての自覚が少しずつ芽生えてきているのか、どちらかはわからない。指でその文字をなぞり、少し悩んだ後に筆箱の中からペンを取り出す。
 おそらく『私』は贔屓をしないために皆を一律遠ざけた。でも、私は。

「……羽風先輩が、好き」

 『誰かを贔屓しない』の文字の上に『プロデュース時は』という文言を書き込む。きっとこれが、今の私の正解。『私』に反するとしても、自分の今の気持ちに、嘘はつきたくないから。

 布団の上に置いた携帯が震える。携帯を開けば「今日の夕方、会える?」との羽風先輩のメッセージ。時計は午前十一時を指している。今日は特に予定も、持ち帰りの作業もない。「会えます」とだけ返して私は布団に飛び込んだ。

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