「キレイだ。」_04
ミーティングを兼ねたお食事会が終わり、日付が回る前に家へと戻ることが出来た。あの日朔間さんが飲み込まれていたソファに寄りかかり、細く息を吐く。深沈とした空気に耐えられずテレビをつければ、見知った顔立ちが楽しそうにはしゃぎ回る姿が映し出される。あの後、晃牙くんにしつこく食い下がって手に入れた彼女の連絡先。灯台もと暗しというのはまさにこのことなのだろうか。同期の中で聞き回っても全く得られなかった情報が、こんな形で手に入るなんて。今日の食事代を全額負担は正直痛いけれど、彼女の連絡先と引き換えならば安い物だ。
「教えてくれたってよかったじゃんか」
「聞かれてねえし」
「聞いた!」
「薫くんが嬢ちゃんの事を愚痴り出す頃には、いつも晃牙は潰れておるからのう」
飲み会での会話を思い出してふふっと笑う。そういえば俺も酒が回らないと愚痴り始めないし、酒の回りが早い晃牙くんはいつだって酩酊状態で俺の話を茶化していた。
だけど、それももう終わりだ。携帯に触れれば彼女の文字と、連絡先が浮かぶ。これでいつでも連絡がとれるのか。でも他人から聞いたなんて格好悪い事に思えて、なかなか一歩が踏み出せきれない。
そんなことを考えながら連絡先を眺めていると、突然携帯が震えた。身を起こして指先を滑らして……そして頬が勝手に緩む。
『お久しぶりです。今日はマフラーありがとうございました。お礼をしたいので、お時間があるときにお茶でもしませんか?』
ずりずりとソファに身が沈む。ああ朔間さんが楽しんでいたのも分かる気がする。俺の突然の寝返りも暖かく受け入れてくれるソファに心を許しながら、にやけた表情のまま彼女に返信を打つ。
『今日はお疲れ様。晃牙くんも言ってたけど、あまり無茶はしないでね? 俺も』
「きみとぜひ、お茶がしたいから」
呟きながらキーボードを叩く。打ち終わった文章を見つめて、誤字がないことを確認して送信する。暗くなる画面ににやけた自分の表情が映り、慌てて顔を引き締めて携帯をまた灯す。
そのままフォルダの奥へ奥へと潜り、あの写真を見つめる。やはり背景も揺れているし彼女も堅く目を閉じているから良い写真だとは言えない。今日の彼女だって化粧っ気はないし髪の毛も乱雑に纏めていたし服もよれていたし、お世辞にはちゃんとしている、口説きたくなるような風貌ではなかったけれど。
それでも、やっぱり、君は。
「キレイだ」