君がいない朝を紡ぐ_01

 羽風先輩がいなくなった夢を見た。晃牙くんとアドニスくんという獰猛な野獣コンビを牽引している朔間先輩という図式になったUNDEADのライブを舞台袖で眺めている夢だった。煌びやかなステージの上、思い思いに吠える彼らを見て誇らしく思う反面、なぜか物足りない気持ちが胸中に渦巻いていた。いつもこんなにステージは広かったっけ。足りないことは感じるのに、それがなんなのかはさっぱりわからない。わからないまま彼らを見つめて、わけのわからない涙をぽろぽろと流す。それは彼らが念願のライブをできた喜びなのか、それとも足りない何かへの涙なのか。ただ胸を締め付ける痛みだけは妙にリアルで、滲む視界に映るステージは、涙で反射してやけに眩しい。

「今宵はーー」

 朔間先輩の声が聞こえる。彼の声に追って歓声が聞こえる。耳鳴りのようなその音の洪水のなか、私は足りない何かを探すようにじっと舞台を眺めていた。

 起き抜けのぼんやりとした頭でわかるのは夢の欠片のような映像と、名残のように頬を伝う涙だけだった。まるで泣きじゃくった後のように、鼻で息を吸うとずるずると音がする。夢で泣くなんて一体いつ振りだろうか。パジャマの袖で涙を拭っても、ぽろぽろとまた新しい雫が頬に流れる。悲しいわけではない。夢の中だということも理解している。でもどうやら体が理解に追いついていないようで、夢の出来事を洗い流すかのごとく涙は後から後からどんどんと流れ出た。
 何か足りないと思ったら羽風先輩が足りなかったのか。暗幕の後ろで見つめた舞台を思い出すと、また胸がきゅっと痛んだ。どうせ拭ってもまた流れてくるなら、と新たに伝う涙を拭うこともせずに私は枕元に置いていた携帯を手に取る。充電ケーブルを親指と人差し指を滑らせて携帯から引っこ抜くとロックを解除して迷わずメール画面を開く。

『今日の練習は絶対に参加してくださいね』

 簡潔に記したそれは公私混同も甚だしい内容で、それでも私は迷いなく送信ボタンを押す。夢の縁は曖昧なのに、涙は止まらない。伝う涙をパジャマの袖で乱暴に拭ったら、携帯が着信ランプを灯しながら震えはじめた。きみは来るの?と書かれたメールを見てすぐさま、絶対行きますから絶対来てくださいね、と食い気味に返事を返す。了解、とだけ記されたそれを見て、私はようやく胸をなでおろした。

top|  →02