彼は『格好良い』というよりも『可愛い』部類に属していて、愛嬌のある笑顔を振りまきながら毒の効いた言葉を吐くような子だった。初めは面食らったものの慣れてしまえばなんてことないもので「助けて奴隷二号ー!」と腰回りをちょこまかする姿は緊迫しているさなかに申し訳ないけれど、とても可愛らしく思っていた。
可愛い後輩。アイドルの卵。好き嫌いが他の人よりも随分多くて、すぐに弱音を吐くけれど決めたことは最後までやり通す。
知っているつもりだった、彼を。
先輩に甘えたり、従者から逃げたり、まだまだ可愛らしい後輩だと、ずっと思っていた。
「成長は、早いものだな」
ライブ衣装のまま、守沢先輩は私の隣に佇んでいる。先ほどまで眼前のステージでライブを行っていたから、彼の額には間だ薄く汗が残っている。きゃあきゃあと黄色い声を上げる観客達はどうやら彼の存在に気が付いていないらしい。それほどfineのステージは観客の目をかっ攫っていた。
「そうですね」
先輩を一瞥して、私はまたステージに視線を戻す。どうして気が付かなかったのだろう。弱音を吐きつつもレッスンについて行く姿。ユニットの活動は隔週だからと自主練をこっそり行う姿。「本当ならプロに頼むんだけどね」と言葉を添えて頻繁に持ってきた衣装の繕いは、成長期だから合わなくなった、という理由だけではないということを、私は知っていたはずだったのに。
「桃李くん、格好いいですね」
「ああ、流石次期『皇帝』だな」
曲が終わる。フェードアウトしていく伴奏とともに彼は今日一番の笑顔を浮かべ、客席に大きく手を振った。なめ回すように眺める彼がこちらを向くタイミングで軽く手を振れば、彼は驚いたように目を丸め、そして一瞬――瞬きをしていたら見逃すほどほんの一瞬――顔を曇らせた後で「ちゃんと見ててくれたー?」と大声を上げる。幾重のもペンライトが伸び、完成とともに波を揺らす。「あとで怒られるな」と守沢先輩が小さく笑った。
「……先輩も負けてられないですね?」
「ああ、後輩達が強大で、嬉しい限りだ」
ライトに照らされたステージの上。一等輝く桃李くんは顔いっぱいに笑顔を浮かべながら「ありがとお!」と愛嬌ある声を上げた。いつもの顔で、いつもの声なのに、その姿は私の知らない『姫宮桃李』の姿に思えた。後輩の成長は嬉しいはずなのに、なぜかほんの少し寂しくて、用意していたピンク色のサイリウムを振りながら、私はその寂しさを紛らわせた。