DropFrame

クリスマスの話。(未来パロ)

 物音がして、薄ら瞳を開けた。隣にあるはずの恋人の寝顔はそこにはなくて、代わりにベッド下からなにかを探るような彼の背中が、目の前でうごめいていた。屈んでいるせいで露わになった背中。スウェットのズボンからちらりちらりと見えている、パンツのゴム。
 隙だらけ、とぬらり燃える悪戯心の召すままに、露わになった素肌に指を這わせれば「みゅ!」と、年を経るごとに久しく聞くことのなくなった彼の可愛らしい声が、寝室に響いた。おそらく驚いて、勢いのまま放り出された『なにか』が宙を舞い、そのまま床に叩きつけられる。『なにか』は軽いものだったようで下に響くようなものではなかったけれど――無残にも、くしゃり、と紙が潰れる音は鼓膜を擦った。なんか、ごめん。

「おおお! 起きてたんッスか?!」
「今、起きたの。ごめんね、びっくりしちゃった?」
「心臓止まるかと思ったッスよ!」

 ぴいぴいと声を上げる彼に「ごめんごめん」と笑い、そうして「なにしてたの?」と尋ねれば、彼の声がぴたりと止んだ。薄暗闇の部屋でもわかる、彼の目の泳ぎっぷり。不自然に回数を重ねる瞬きと「ひひひ、秘密ッスよお」と狼狽える抑揚。まあ落ちたものを見ればわかるか、と彼の背中ごしに見える『なにか』を確かめようと中腰になれば「姉御!」と彼は私を強引に布団へと押し戻した。

「姉御はまだ、おやすみの時間ッスよ!」

 そうして旨まで掛け布団をかけて、今度は取り繕うような笑顔を貼り付け「おやすみの時間ッスよお」とあやすように甘い声を出す。そのあまりの怪しい言動に「おやすみの時間って、今何時?」と尋ねれば、まさか時間を聞かれるとは思わなかったらしい鉄虎くんの口からは「んんん?」なんて動揺の音が唇から漏れ出した。

「もうおやすみの時間じゃないと思う。おはよう、鉄虎くん」
「わー! おやすみの時間ッス! おやすみなさいッス姉御!」

 身体を起こそうとすれば、組み敷かれるように布団に戻されてしまった。強引なその様に眉を寄せるけれど、鉄虎くんは頑なに掛け布団を胸元までたぐり寄せて、そしてあやすように何度も「寝る時間ッスからねえー」と歌うように掛け布団ごしに胸元を叩く。
 その単調なリズムと、暖かな布団と。冬というのは厄介で、それだけそろえば簡単に眠気が産まれてしまう。彼の不自然な態度も、床におちた『なにか』も覆い尽くすように、背中から頭まで、じわじわと眠気が染み渡る。

「おやすみなさい、姉御」

 鉄虎くんの声がする。重く落ちる瞼の向こうで、やはり取り繕うような微笑みを浮かべた彼の表情があるのを私は知っている。でも、それを指摘する気力もすべて、眠気の波に攫われて、消えていく。

「ん……」

 手をたぐらせれば、鉄虎くんの大きな手のひらが、私のそれを包んだ。自分よりも一等暖かな手のひらを握りながら、私はもう一度、夢の中へ……。

 目を覚ませば、目の前に見慣れない包みがひとつ。『MerryChristmas』と印字されたシールとともに、緑色の包装紙で綺麗に梱包された箱が、目の前に鎮座していた。
 そういうことか。
 見ればほんの少しだけ紙がよれていて、角がへこんでいる。破れた箇所は乱雑にもテープで止めてあり――昨晩のやりとりが脳裏をかすめ、私の頬は緩んでいく。

 すっとぼけなサンタクロースは私の隣で気持ちよさそうにいびきをかいていた。さて、彼はもうおはよcうの時間なのか。それともまだ、おやすみの時間なのか。
 気持ちよさそうに眠り続ける彼の隣に寄り添って、無防備なその手に触れる。指先に薄い――セロハンのようななにかが触れて、私はそれごと、彼の手を握りしめた。