DropFrame

キャッチボールをする話

 青空に白球が流れる。小気味の良い音が響く。高架下、行ったり来たりを繰り返すボールは私のグローブから鉄虎くんのグローブへ、そして鉄虎くんのグローブから私のグローブへと、何度も収まり放られる。綺麗な放物線を描く軌跡。その上を、電車が音を立てて通り過ぎる。

「上手いッスね!」

 グローブへと吸い込まれるように投げられた球をキャッチし、彼へと投げ返す。

「弟がいるからかな!」

 まだ方向の定まらないボールは、鉄虎くんから少し外れた場所へと流れていく。しかし彼はそれを難なく受け取り、その場所からきっちりと、こちらへと投げ返してくれる。
 鉄虎くんは投げるのが上手い。どこへ投げても、真っ直ぐこちらへと届くように返してくれる。

「たまに、こうして遊ぶんスか?」
「もうしばらくやってないよ! 弟も高校生だし」
「そうなんスね」

 すぱん、すぱん。会話の隙間隙間に、ボールがグローブに包まれる音が響き渡る。頭上に影が落ち、流れるように電車が通り過ぎていく。投げ返しては受け取り、受け取っては投げ返し。会話を挟みながら何度も何度も、球は私たちの間を行き来する。

「俺、一人っ子だから姉弟で遊ぶとか、そういうの羨ましいッス」
「でもそんなに仲良くもないよ? よく喧嘩もするし」
「そうなんスか?」
「チャンネル争いとか」
「あー」
「部活も忙しいらしくて、最近あんまり遊んでもないなあ」
「姉弟共々、忙しいんッスね」
「でもこうして鉄虎くんが息抜きに付き合ってくれるから、私は割と平気!」

 ぱしん。音を立てて鉄虎くんが球を受け取る。硬球を握り、幾度か自分のグローブにそれを投げつけながら、彼は真っ直ぐ、こちらを見つめた。そうして視線を外し、迷うように瞳を揺らす。手の中でボールを幾度か、遊ばせる。

「姉御」

 鉄虎くんが振りかぶる。私もグローブを握り、開く。

「なあに?」

 遠くから列車の音。太陽が遮られ、濃い、影が落ちる。

「              」

ぱしん、と球がグローブの中に納まった。遠く、列車の名残のような音が鼓膜を擦る。困ったような、怒ったような、少しバツが悪いような。そんな表情を浮かべて、鉄虎くんはそっぽを向いた。

「ごめん、もう一回言ってもらっていい?」

 私は球を投げる。また、彼から少し離れた位置に、それは飛んでいく。

「嫌ッス」

 彼は難なく受け取り、そしてそれを真っ直ぐに、私へと投げ返す。

 鉄虎くんは投げるのが上手い。どこへ投げても、どんな速度でも、必ず受け取って、真っ直ぐこちらへと届くように返してくれる。

 俺以外は誘わないでくださいね。

 風の隙間に聞こえた言葉は、私だけの内緒にしよう。受け取った硬球を握りしめて、私は大きく振りかぶった。