遠くに雷鳴が轟く。それを合図に、激しく叩きつける雨の音。光る稲光。ゴロゴロと、不機嫌な空。
「はー、すごいッスね」
呑気にカーテンを捲っていた鉄虎くんは、そんなことを口にした。先ほどから明滅する空を見ては感心するように「光った」「おお、また」と繰り返す彼とはおそらく、一生分かり合えそうにない。私が一歩一歩と彼から距離をとると、彼の視線が雨に塗れる窓ガラスからこちらへと移った。「姉御?」
そうしてまた、光が瞬く。暫くして、空が唸る。びくりと肩を震わせれば、ようやく異変に気がついた彼は「あー」と苦笑を浮かべ「そういうことッスね」と言葉を継いだ。揶揄することもなく、呆れるでもなく、鉄虎くんはそのままカーテンを閉じ、こちらへと歩み寄る。
「すぐに止みますから。大体一時間もすれば、静かになるッスよ」
そうして耳元に当てていた私の手を緩く掴むと、そのままソファーまで先導された。ぴかぴかとご機嫌に光るカーテンの向こうに怯える私に「だいじょーぶッス」と彼は根拠なく笑い、そのままソファーに座らせた。深く沈むクッションにいつも安心感を覚えるのに、閃光の恐怖がすべてを塗りつぶしてしまう。
光に合わせてびくりびくりと震えていたら、彼はなぜか嬉しそうに、片頬をあげて笑った。
「一緒に暮らすようになって、姉御の苦手が沢山知れて嬉しい限りッス」
「私は情けない限りなんだけど……」
ぴかり、また空が光る。雷が嘶く。条件反射のように肩を揺らしてしまえば「大丈夫怖くないッスよ」とあやすような鉄虎くんの声。
「……なんかちょっと楽しんでない?」
「うん? 何のことッスかね?」
鉄虎くんはそう一笑し、腰に手を回す。いつでも音を遮断できるように耳元に手を当てる私に、それを拒む術はない。
「いやあ、姉御の可愛い姿が見られて、嬉しいんッスよね」
ごろごろと雷が響く。土砂降りの雨は部屋の中の僅かな音を、すべて飲み込んでいく。
縋るように鉄虎くんへと寄れば、彼は嬉しそうに身を寄せ返し、喉で笑い声を転がした。
「姉御には悪いッスけど……俺、雷好きッス」