DropFrame

嵐ちゃんを好きな転校生ちゃんと、転校生ちゃんを好きな晃牙くんの話

 細い指がページをめくる。「綺麗だね」と艶やかな声を紡ぐ彼女に、浮かぶ言葉は何もない。今月号の雑誌のグラビアにのるアイツは、今日も嫌と言うほど見てきた顔だというのに同性の自分から見ても色気に溢れていて――思わず眉が寄る。しかし彼女は一面にでかでかと飾られたそれを愛おしそうに指でなぞって「すごいなあ」と言葉を漏らす。そうして彼女はようやく雑誌から視線をあげてこちらへとよこし「すごいよね」と言葉を繰り返す。自分に到底向けないような、柔らかな笑みを浮かべられて「そーだな」と隠していた不機嫌が声色に乗ってしまった。彼女の笑みが、みるみる曇る。ほれみろ、俺様にはそういう顔しかしねーくせに。それが面白くなくて舌打ちをすれば「興味なさすぎでしょ」と彼女は少しベクトルの違う怒りを漏らし、ため息を吐いた。

「アイドルなんだからこういうことも勉強しないと……いやでも、いいなあ。すごい、格好いい。同じ年齢と思えない綺麗さ」
「んな変わんねえだろうが」
「変わるって。 ……うん」

 トーンの落ちたその音に彼女を見れば、微笑みを浮かべる口元とは違い、目を伏せて「綺麗なひと、きっと周りにもたくさんいるんだろうな」とぽそり、呟いた。それは先ほどまでの『プロデューサー』としての顔ではない、彼女自身の本来の姿だ。指先が紙の端を擦り、ページを捲る。捲った先にも『アイツ』の写真がでかでかと印刷されていて――彼女は先ほどの陰りが嘘のように、悦に浸ったように口元を緩ませながら「はあ」と息を吐いた。

「綺麗だなあ」

 感嘆の声が響く。指が紙の端から離れて、印刷された『アイツ』の髪の毛を軽く撫でる。雑誌を見つめるその瞳に、熱が灯る。

 しかしどれほど熱望しても、それは叶わないことを知っていた。
 それは俺も、彼女も。
 知っていながらも『恋』なんて、くだらない幻想に囚われて、逃げられない。
 ただひたすら、追いかけることしか出来ない。

 俺にしとけよ、なんて。そんなこと口が裂けても言えそうにない。それでもいつか、いつか来る『その日』に側にいてやれるように。彼女の泣き場所を、他の奴らにとられないように、今日も彼女の隣に佇んでいる。

 茜色が教室を染める。

「格好いいなあ」

 彼女の声が、また響く。

「おい。『綺麗』じゃなかったのかよ」

 からかうように声を上げれば「うるさいなあ」と鋭い声が飛んできた。子供じみたその声と、露骨に寄る眉と。それはおそらく『友人』である俺にしか向けられない表情で――今はまだ、それだけでいいと思った。