彼は気持ちのよい程に大きなあくびを浮かべ、そのままこちらへと倒れ込んできた。肩を追い越し、胸へ。一歩間違えば事案のその位置であるにも関わらず、彼はまるで起きるのを抗うように「ううん、もうちょっと」と言葉を落とす。まるで朝寝坊のこどもじゃないか。ぐずるその言葉とともに、収まりの良いところを探す頭は、先ほどから容赦なく身じろぎを繰り返す。
くすぐったい旨の感覚に「もうお昼ですけど」と声をかければ、僅かにその瞳が開いた。紅に光る瞳の奥には、薄い涙の膜。僅かに差し込む陽光を反射して、彼の瞳はキラキラと輝いていた。
「お昼だから、寝るんだけど」
彼はそう、まるで当たり前のことを諭すように言うと、またふああ、とあくびを零した。そのまま今度はすとんと、胸に頭を寄せる。
「あのね、凛月くん」
「なに?」
「私、たまには逆がいいなあ、って」
「逆?」
当然のように胸中へと身を寄せる彼がずり落ちないよう、腕で支える。決して軽くないその体重を支えながら、でもこれって普通逆では? なんて気持ちが拭えない。いや、アイドルとプロデューサーなら正解だけど、こう、男と女としましては、男側に支えてほしいわけで……。
そんな気持ちを抱いて凛月くんを見下ろせば、彼はにやりと微笑み「そうだね」と笑う。
「わかった、考えとく。俺が飽きたらね」
彼はそう言ってまた大きなあくびを浮かべた。体重がかかる。耳を澄ませばすうすうと、規則正しい寝息が聞こえる。
全く仕方のない子だなあと思いながらも、憎めなくて肩を竦める。天使のようなその寝顔に「約束だからね」と呟けば、彼の指先が私の服をぎゅうと掴んだ。