DropFrame

お手紙の話

 『先輩』と、『いっちゃやだ』と、しかし私が泣くわけにはいかないと思い、ずっと我慢しておりました。別れを惜しむ涙もきっと、流すのは私ではなくて、あなたが愛し育んだ後輩の役目。私はただたおやかに、笑顔であなたを見送り、そして未来へと進むのが役目です。

 桜の花が吹雪いておりました。とてもよく晴れた、あなたのような天気でした。

 いつも快活なあなたが瞳に涙を滲ませて「大丈夫だ」と「これからはお前たちの時代だ」と、後輩たちの肩を叩いていたのをよく覚えています。そうして私には「こいつらを頼む」と、深々と頭を下げられたことも、鮮明に思い出せます。
 あのときの私は「大丈夫です」と「私はプロデューサーですから」と胸を張ってみせましたね。でも本当は、本当は私もあなたの『お前たち』に含まれたくて、肩を叩いて『大丈夫だ』と、そう声をかけてもらいたかったのです。
 それでも、本当のことを言ってしまうとあなたは困ってしまうから、それで私は最後まで笑って『プロデューサー』として、勤め上げたのです。

 もうすぐ、春が来ます。否応なしに、時代は移り変わります。赤色があなたの色でなくなります。あなたが大切に愛し、育み、守った、可愛い後輩が赤を纏います。
 それを私は、心から嬉しいと思います。本当です。本当ですよ?
 それでも心のどこかで、あなたの『守沢千秋』の『流星レッド』が失われることが悲しいと、思ってもいいでしょうか? あなたはそんな私を、怒るでしょうか。困って、呆れるでしょうか。そういえばよく「無理をしているな」と怒って下さったことがありましたね。可愛げのない私は「先輩が言いますか?」と笑って返すことしか出来ませんでしたが、先輩に心配されることは、私の学院生活の楽しみの一つだったことを、今ここで白状します。

 手紙を書き終えれば、これは誰に渡すでもなく燃やすつもりです。この気持ちを燃やし、灰になるのを見届けたら、私も未来へと進むつもりです。

 今日はとてもいい天気です。三月三十一日。あなたと過ごした唯一の一年間の、最後の日です。空には燦然と輝く太陽が、人々を見守ってくれています。

 どうか、お元気で。そしてどうか、この気持ちに気付かれませんように。
 お体に気をつけて。