冴えてしまった頭の赴くままに外へと出れば「起きていたのか」との彼の声。彼の言葉に首を縦に振れば、どうやら走ってきた帰りらしい彼は、火照った手で私の手首を掴み「丁度いい」と歩き出す。おおよそ早い歩調に、履いてきたつっかけがカタカタと揺れる。朝の、生まれたての海風が、頬を叩く。それは随分と冷たいのに、手首だけがやけに熱い。まるで命が灯ったかのような熱。どく、どく。皮膚から滲むそれに熱された血が、音を立てて巡っていく。
「アドニスくん、どこへ行くの?」
「もう少し」
もう少し。
彼の言葉を反芻しながら、背中を追い歩く。海岸沿いの堤防はまだ薄暗く、すれ違う人の影も随分と少ない。
まだ薄い月が輝く夜と朝の淵を二人で歩けば、水平線の向こうに、ぽつり、あかりが灯った。アドニスくんが歩みを止める。私も足を止めて、海の向こうを見つめた。
生まれたてのその点は、まるで水平線に滲むような線となり、夜の空に光を広げる。そうして徐々に登り始めた太陽は藍色の空を白く染めながら、町を朝で塗りつぶしていく。
「夜が明けるな」
朝日が彼の人の褐色の肌を、白く染めていく。清々しい横顔に「うん」と小さく、言葉を返す。
「今日がはじまる」
アドニスくんはそう言って、手首から手を離した。離れた熱を恋しく思う隙も与えず、彼は密やかに、指先に自らの指を絡ます。
「おまえと見られて、よかった」
きらきらと輝く白波と、彼の髪の毛と。柔らかすぎる微笑みがまぶしくて、まだもう少しこのままでいたいと、絡む指に力を込めた。