涙はきらきらと輝いていた。大丈夫だよ、だとか、君は頑張っているから、だとか、そんな軽い言葉など消し飛ぶほどに美しい涙だった。
潤い過ぎた瞳は、街灯の光を吸い込み星屑のように光る。そろりと手を伸ばせば指先にそれは落ちたものの、彼女の瞳に灯ったような光はもうそこにはなかった。ただの涙であり、水。
しかし彼女の悲しみの一端を無碍にするつもりもなく、指先にそれを乗せたまま、彼女の背を押し無理矢理胸に飛び込ませる。驚いて跳ね退かれると思ったけれど彼女はおとなしく胸に納まり、すんと鼻を鳴らした。
頭の中で慰める言葉を探す。でも、見つからない。
「……先輩、制服が汚れちゃうので」
彼女がやんわりと胸を押すが、離したくなくて背中を押してそれを阻止する。彼女はまた鼻を鳴らして「先輩?」と弱々しく声を出す。ああこういうときにどういう言葉をかければいいんだっけ。おそらく彼女の悩みはプロデュースの事だろうし、それらしく慰める言葉は沢山持っていたはずなのに。
「何か言って下さい」
「……ごめんね、いま、考えてるから」
「考えてる?」
それだけ言うと、彼女を抱く腕の力を強めた。ああ情けない、こんな時気の利いた言葉一つ出てこないなんて。でも彼女が真摯に頑張ってるのも知っているから、ちゃんとした、汎用的に慰めるような言葉じゃ無いものを送りたい。でも、何も思いつかない。
「先輩」
涙声の彼女が呼ぶ声が聞こえる。「なあに」と彼女の頭を撫でれば、彼女は黙り、そして肩に額をつけて、泣き出した。
誰も辺りにはいないというのに、声を押し殺して。
泣かないで欲しいと思ったし、泣いて欲しいとも思った。
「俺はね、君のことが好きだよ」
だから、無理ばかりしないでほしいし、しんどかったら言って欲しい。なんならここにまた泣きに来てもいいんだよ。
そう言葉を続けたかったのに、彼女は、好きだよ、と言った瞬間に「そればっか」と悪態を吐いた。こういうところ、可愛くないなあと思う。でも、そういうところも、可愛いなあと思うのは惚れた弱みかもしれない。
「顔上げて?」
素直に上げた顔には、先ほどよりも更に涙を湛えた瞳があった。きらきらと輝くそのまぶたにキスを落とせば、ぽろりと押し出された涙が零れる。
「うん、やっぱり好き」
彼女は少し照れくさそうに「馬鹿」と言い、少しだけ笑った。