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もう何度目かのこわい夢

 それって恋じゃないの? と嬉しそうな妹の瞳が忘れられない。好奇心を滲ませたその瞳は明らかに自分の悩みを茶化そうとしているのには気がついていたし、妹くらいの年代ならなんでも恋だの愛だのに結びつけたがる事は分かっていた。
 だから気にしないことにしたはずだった。なのに、その甘ったるい言葉は心にへばりついて離れない。

「悩み事でもあります?」
「どうした急に」
「いえ、なんだか様子がおかしいと思いまして」

 自分とは違う、柔らかな肉に覆われた華奢な指が針山から一本針を取り上げる。布を織り、まち針を刺しながら彼女は「でも、鬼龍先輩なら自力で解決できそうですよね」と小さく笑った。
 彼女が笑う度、か細い前髪が揺れる。隙間から丸い瞳が覗く。頭一つ分小さい彼女はちょこんと畳の上に座りながら膝の上に衣装を広げ「でも、私が力になれるのならいつでも相談して下さいね」と目を伏せた。長いまつげが伏せられる。自分より小さくて柔らかな存在。
 鉄虎を組み敷いたときの、あの小柄でも筋肉質な身体と、彼女の柔らかなそれを脳裏で並べる。衣装の隙間から覗く太ももに、柔らかいのだろうか、なんて頭に浮かぶ。

「そういえば、私はいつでもいいですよ」
「あ?」
「採寸の件です。私の背丈で一度確認したいって、先輩おっしゃってませんでしたっけ?」

 そう彼女は言い立ち上がる。制服のブレザーを脱ぎ、シャツ一枚という無防備な姿だ。何度も見たはずなのに、胸がじくりと痛む。

『それって恋じゃないの?』

 妹の声が、反芻する。

「先輩?」
「……いや、まて嬢ちゃん」
「あ、まだ早かったですか?」
「いや、早いってわけじゃねえけど……その……」
「いえ気にしないで下さい。私のほう、進めちゃいますね」

 そう言って彼女は隣に座る。鉄虎のようなあぐらでも無く、颯馬のような正座でも無く、両足を曲げて横に投げ出した、女性らしい座り方。
 じくり、じくり。心が痛む。
 嗅ぎ慣れない、薄い花のにおいが鼻腔をくすぐる。
 これは、一体何なんだ。

『それって恋じゃないの?』
「(夢なら覚めてくれ)」