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月光が支配する世界はUNDEADたる彼にふさわしい情景だと思った

 夢の淵へと誘おうとする眠気に抗い瞼を開けば、晃牙くんはじっとこちらを見つめていた。普段なら目が合えば文句の一つや二つ口にするというのに、彼はしょぼしょぼと瞬きを繰り返す私をいたわるように頭を撫でて、無理せず寝ろよ、といった。一人分のベットに、二人で身を寄せ合う。否が応でもくっつく肌。届く体温。ん、と肯定の言葉を短く吐いて首をもたげる。こつんと彼の肩に頭が当たり、ごめん、と呟くと、晃牙くんは何も言わず、引き寄せるように私を抱きしめた。

 彼の部屋のカーテンが揺れる。月光が暖かな光を部屋に落とす。夜は存外に明るい。月光が貯まるテーブルの上には飲みかけのペットボトル、投げ出された楽譜。上着。彼のものが乱雑に息づいている。

「顔あげろよ」

 声の促すまま顔を上げると、満月のような彼の二つの目がゆっくりと閉じて、開く。そのまま体ごと掻き抱くように距離を詰められて、唇が合わさる。隙間から漏れる息。どちらが吐いたものなのかわからないほど溶け合い混ざり合い、晃牙くんの部屋に漂う。彼の空間に、私の存在が混じり合う。たりない、たりない。お互い貪るようにそれを続けて、カーテンが夜風に揺られてまた身を翻す頃、ようやく晃牙くんはゆっくりと離れていった。
 晃牙くんは何も言わない。何も言わずにじっとこちらを見つめている。頬に落ちた横髪を彼は指先で弾いて、手のひらで頬を包む。彼のギターをかき鳴らす指先は、私のそれよりもずいぶん硬かった。その硬い指先で頬の輪郭をなぞって、瞳に私を映す。

「逃す気はねえからな」

 逃げるつもりなんて毛頭ないのに。彼にすりよるといつもは粗暴な晃牙くんがとても優しく抱きしめてくれた。孤高の狼は獲物を逃さない。そして食い殺しもしない。優しく撫でるその感触を瞳を閉じて堪能する。優しい夢の扉がゆっくりと開く。睡魔が指先から頭までじわじわと包む。重くなる瞼をゆっくりと閉じれば、優しいまどろみが私を待っていた。彼の体温、彼の香り。身体中に晃牙くんを感じながら、おやすみ、と声を漏らす。

 夢の中に落ちる寸前。突然首元にぴりりとした小さな痛みを感じて私は思わずか細い息を漏らす。彼は楽しそうにくつくつと笑い、まるでいたわるかのように、先ほど噛み付いた箇所を舌でなぞった。

 否、食い殺しはするのかもしれない。狼は私を抱きしめながら、また鋭い牙を肌に突き立てた。