くたくたになった体をシーツの上に転がせば、まどろんでいた羽風先輩がぱちりと目を開いた。開いたかと思えばまたとろけるように目元は緩んで、おぼつかない言葉がシーツの上を転がる。うーん、だとか、ふふふ、だとか、未発達な言葉を吐きながら彼はゆっくりと私に手を伸ばした。彼の手のひらの下に転がり込めば羽風先輩は気怠い調子で体を少しだけ起こして私の後頭部を掴む。そのまま私を抱き寄せた先輩は、ふふふ、と笑いながら頭に頬を寄せた。
「ね、声聞かせて」
糖度溢れる声に促されるまま、羽風先輩、と彼の名前を呼べば先輩は幸せそうに微笑んだ。彼は私の体をなぞるように指を添わせる。足の付け根から、背中から首元まで。輪郭を確かめるように指が動くたび、そのくすぐったさに先輩に身を寄せると、羽風先輩は、本当にかわいいなあ、と言葉を零してまた指で体をなぞり続ける。先刻の行為が薄らと頭に浮かび、気恥ずかしさに私は先輩の胸にすり寄った。どうしたの、と彼の声が降る。指先は相変わらず私の背中の上を遊び続ける。何も言わず首を振る私に、言わなきゃわからないよ、と彼は嬉しそうにそう言った。本当はわかってるくせに。私が顔を上げると先輩は待ってましたと言わんばかりにキスを落とす。ついばむようなキスから、次第に深度を増していくそれは耳を塞ぎたくなるようないやらしい音を立てて何度も何度も混じり合う。背中で遊んでいた指先は、気がつけば爪をたてるように背中に食い込んでいた。ちりりとした痛みすら愛おしく感じて、目の前がくらくらする。先輩の唇の隙間をぬって呼吸をすると、彼は大きく音を立てて唇を離して嬉しそうに微笑んだ。
「跡、残っちゃうね」
「せなか……?」
「うん背中。ごめんね、残そうとは思わなかったんだけどあまりに綺麗だったから」
ちょっとだけ傷つけたくなっちゃった。そう言って彼はまた指先を滑らせる。まるで確かめるように往復する指の動き。そこに傷跡があるのだろうか。傷跡といってもきっと寝て起きたら分からなくなってる程度のものだろうけど。ぼんやりと幸せに溶かされた頭の中に浮かんだ、ささやかですね、なんて言葉がぽろりと口からこぼれ落ちた。先輩は驚いたように目を見開いて、そして、へえ、と目を細めて笑った。先ほどとは違う、爛々とした炎が瞳に灯っているような気がして、私は慌てて彼の名前を呼んだ。
「……もう一個くらいつけようかな」
うん、とも、はい、ともいう間も無く、先輩は食らいつくように胸元に唇を落とした。制服から見えるギリギリのラインに落とされた小さな痛みに一気に頭が覚醒する。しかしもう遅い。先ほどよりも強い痛みに吐息交じりの声を漏らすと、先輩は嬉しそうにくすくす笑い声を上げた。
「ささやかな、しるしね?」
いたずらっ子のように笑う先輩は私を再度抱きしめると、とびきり甘い声で私の名前をなぞった。そんな呼ばれ方をしたら、許してしまうに決まっているじゃないか。ほだされた気持ちで先輩の胸に頭を寄せると、おやすみ、なんてとびきり優しい声が耳に届いた。