DropFrame

月光が支配する世界はUNDEADたる彼にふさわしい情景だと思った

 柔い肌に跡を残すように彼は噛み付く。吸えないくせに歯をたてるので、薄い皮膚は破られて行き場のない血が肌にじんわりと滲む。彼はそれを愛おしそうに舐めとって眉を寄せる。時折むせるように咳き込むので、無理しなくていいですよ、と私が告げると零さんは首を振るいまた垂れた血を舐めとる。何度も何度も繰り返されたその行為は彼のお気に入りらしく、人目がつかない時間、場所を狙っては肌に牙を立てる。
 汚くないのかな、と思う。きっと人間と吸血鬼の感覚は違うのだとも思う。自称吸血鬼さんは、弟と違い血が飲めない。特に血に焦がれたりもしないらしい。それでも嬢ちゃんの血は吸いたい。そんなことをうそぶいて彼はいつも歯型を残す。二の腕やお腹、時には太ももなど服で隠れる位置を巧妙に探して歯を立てる。舐めとっては苦い顔をして、そしてまた舐めとる。倒錯的とも言えるその行為に興味を示したつもりはない、さらに言えば許した覚えもないのに、気がついたら私は彼に喰らいつかれている。

「痛いか?」

 ぷちり。また皮膚が破れる。激痛とは言い難い柔い衝撃は回数を重ねるうちに、快楽へと変わっていってしまっていた。彼が牙を立てるたび、皮膚が破れるたび、肌は泡立ち心臓はうるさいほどに跳ね上がる。腰に回された手も愛撫をするでもなく、逃げない為につながれている縄のようなものだ。しかしその拘束でさえ、扇情的に感じてしまう。そんなことを申告できるはずもなく私はただただ閉口する。唇を真一文字に結んで床を睨みつけると、朔間先輩はくつくつと笑い声を漏らして傷跡をなぞるようにゆっくりと舌を這わした。ざらりとした感触。吸い上げられる肌。お腹よりもっと下、内側から沸き起こるぞくりとした感覚に声を漏らすと、先輩は腰を抱く力を強めて、また傷跡をなぞる。

「零さん」
「なんじゃ」
「おいしいですか?」
「そりゃあもう、格別に」

 やせ我慢の吸血鬼はくつくつと笑いながら流れる血を舐めとっては眉を寄せる。それでも美味しいと言ってくれるならば、必要とされるならば私はいくらでもこの身を差し出そう。

 貪るような舌の動きが止まり、彼は新しい箇所に歯を立てる。ぷちりと小さな破裂音。音とともに確かに刻まれる所有印は、私と彼の逢瀬の証だ。