気持ちが急くほど行動は大雑把になりやすい。大きな籠を抱えて階段を数段飛ばして駆け上がっていると、隣で同じように籠を抱えた後輩は、雄々しすぎません?と笑った。私よりも重い籠を持っているにも関わらず彼の足取りは軽い。ひょいひょいと階段を上り踊り場に立つと、よろけた私を見下ろして苦笑を浮かべた。
「やっぱ俺が全部持った方が良かったッスかね?」
「アイドルに持たせるわけにはいかないよ……持たせてるけど」
「俺は別に気にしないッスけどね」
足を上げる。2段先に足をつける。足の平に力を入れて腰を持ち上げる。ゆっくりとだが確かに階段を登っていると鉄虎くんの頑張ってください!なんて可愛い応援が聞こえた。私は頷き、ありがとお、と弱々しく伝え籠を抱え直した。
急遽佐賀美先生から運ぶように頼まれたこの籠には流星隊の衣装が詰まっている。次のライブで使うものだが、どうにも先生が持ち運ぶには重すぎるらしい。白羽の矢がたった私はちょうど時間を持て余していて、二つ返事で了承したはいいが想定より多い衣装に今度は私が困ってしまった。そんなとき、たまたま通りかかった鉄虎くんがレッスンに行くついでに、と強引にひとつ籠を持ってくれたのだ。
ふらふらになりながら踊り場へと足をかけると、鉄虎くんが、あと少しッス!と声をかけてくれた。ふっ、と軽く息を吐いて登りきると、額から玉のような汗が流れる。いつもは平然と昇り降りしている階段なのに、胸には妙な充実感が広がる。長い息を吐くと、鉄虎くんは、あとちょっとッスけど休憩しましょうか、と籠を廊下に下ろした。私も同じように籠を下ろす。今まで遮蔽物があった分、顔に当たる風が心地よい。
「それにしても、女の人がこんな大荷物って無茶っすよ」
「うーん、でも少しでもみんなの役に立ちたいし」
「無茶しすぎるとダメっすよ」
「うん、ありがとね」
私が笑うと鉄虎くんは照れくさそうに頬をかいて、まあでも、と言葉を漏らす。少しだけ目を伏せて横に視線を逸らして、でも言葉は続かない。微笑みを浮かべながら暫くの沈黙して、照れくさそうな笑顔を浮かべた。
「困ったらいつでも呼び出してくださいね!」
彼は元気よくそういうと籠を勢い良く抱えた。私も籠を再び抱えると、鉄虎くんは先程のような優しい笑みを浮かべて、うん、と呟く。
彼が階段をかける。私よりもほんの少しだけ広い背中が遠くなる。本当に言いたかったのは先程の言葉なのだろうか。踊り場に立ち尽くし彼を見上げていると、鉄虎くんは振り返って元気な笑顔を浮かべて、早く行きましょ!と声を上げた。