ちりんちりんと風鈴が揺れる。からんからんと氷も揺れる。たくさんの音に囲まれながら閑散とした喫茶店で私は真緒くんと二人、ランチを楽しんでいた。窓からいっぱいに降り注ぐ太陽の光を浴びて、オムライスのケチャップがてらてらと光る。スプーンを差し込んで口に運ぶと、隣でカレーライスをつついていた真緒くんは、うまそうだな、と私の口元を見つめる。解けるケチャップとソーセージの甘みに、美味しいよ、と頷くと、彼は顔を赤くして、なんてもない、と突然そっぽを向いてしまった。今の言葉もしかしてなにか間違っていたのだろうか。でもオムライスが美味しいのは間違いないので、もそもそと咀嚼を続ける。真緒くんも一度私の顔をみて、困ったように眉を顰めてカレーライスを口に運ぶ。かちゃりかちゃりと、お皿とスプーンがぶつかり音を立てる。美味しい音が、あたりに広がる。
「その」
「うん」
「ついてる」
「なにが?」
「くちに」
真緒くんがじっと私の唇を見つめる。もしかしてお米粒でも付いていたのだろうか。親指でそっと輪郭を撫でてもそれらしい感触にはぶつからない。真緒くんは焦ったそうに私を睨んで、おもむろにスプーンを置いて腰を浮かせた。テーブルの真ん中に手を置いて、ずいと顔を寄せる。
「……うまそうだから、食った」
唇が離れる際、彼は恥ずかしそうにそう言った。ほんのりと香るカレーのにおいが妙に生々しくて、お互い目をそらす。そしてコップの氷が音を立てるまで、互いにスプーンを手に取ることはなかった。