DropFrame

まどろみ

 防災無線が鳴っている。寂寞と流れるメロディーは夜の訪れを報せるように響き渡る。肩口に乗るアドニス君の頭が、もぞりと動き、ゆっくりと離れた。眠っていたか。まだ夢見心地で呟く彼に、疲れてるんじゃない?と私は笑う。

「すまない、肩を……重かっただろう?」
「気にしないで、なんだかちょっと嬉しかった」
「嬉しい?」
「いつも私が頼ってばかりだから、たまにはアドニスくんの支えになれて」

 まあ今回は物理的だけど。私が笑うとアドニスくんは少し思案した後、また首をもたげて私の肩に頭を乗せた。彼の頭が肩から落ちないように気を付けながらほんの少しだけアドニスくんの方へ体を向ける。大きな体躯は私の座高に合わないのか、窮屈そうに体を丸めている。

「寝るなら保健室いく?」
「いや、ここでいい」
「でもなんだか窮屈そうだし、あ、あのその、ひ、膝枕でもいいけど」
「構わない」

 そう言ってアドニスくんは私の左腕を抱え込んだ。そして左手の指を自らの指と絡ませて握りこむ。

「俺も、こうして寄り添うのは好きだ」

 アドニスくんは首を傾けてこちらに目線を向ける。いつもよりも甘えたその視線に、私の心臓は勢いよく跳ね上がった。

「お前が嬉しいなら、しばらくこうしていよう」

 夜の知らせはもう聞こえない。遠くの方で木霊するようにからすが数羽鳴いている。終わりかけた今日だけど、時間が許す限り一緒にいよう。またうとうとと船をこぎ出したアドニスくんの緩んだ表情を見て、私は彼の手を緩く握り返した。