それは空の青と雲の白のコントラストがぱっきりと割れた、晴れ晴れとした日だった。太陽はとても元気に街を照らしていて、明るすぎる世界にまるで底知れぬ穴のような色濃い影がたくさん落ちていた。日差しを避けるように木陰に入れば、いつもよりの数トーン明るい世界が見える。きらきらと輝く真昼間。昼食に買ったパンたちが袋の中でがさがさと揺れる。
同じように太陽から逃げてきた晃牙くんは大粒の汗を流しながら、なんだよこの天気は、と大きくため息を吐いた。なんだろうねこの天気は、と彼の言葉を真似して言うと、彼はコンクリートの階段に腰掛けて、もう歩きたくねえ、と吐き捨てた。彼の銀色の髪に木陰から漏れた太陽がきらきらと光る。私も晃牙くんの隣にしゃがみこんで木の隙間から空を見上げた。
「アイスでも買ってこればよかったかなあ」
青々しく茂る葉っぱの隙間から真っ青に広がる空が見える。木の葉が揺らめくたびに空は切り取られ、揺れて、光を落とす。肌に落ちる光の形を見つめていると、晃牙くんは不機嫌そうに私の名前をなぞり、そのまま肩に頭を乗せた。そして彼は私の肩にのっけたままじろりとこちらを睨む。
「あちいどうにかしろよ」
無茶なことを言いながらどんどんと彼は肩に体重を乗せてくる。ゆるやかな重みが痛みに変わったあたりで、暑いなら離れなよ、と口を尖らせると、彼は肩から頭を退けることなく、あつい、と繰り返し口にする。ぽたり、と私の肌に彼の汗が落ちる。晃牙くんの方を見ると彼はやはり暑い暑いを繰り返しながら私の肩にもたれかかり、忌々しそうに影の向こうの世界を見ている。
ふと心の奥底から湧き上がった悪戯心が、私に「わるいこと」を囁く。普段ならしないようなことだけれど、暑いし、肩は痛いし、少しくらいならいいかもしれない。晃牙くんにばれないように、ゆっくりと腕を動かす。そして体重を支えているであろう右手の甲に、そっと私の手のひらを重ねた。
途端に軽くなる肩。微風が吹いて、晃牙くんが飛び退いたことを知る。彼は目を丸くして顔を赤くして、テメエ!と大きく吠えた。暑さでやられた頭に彼の声がわんわんと響く。眉を寄せながら声が大きい、と非難を飛ばすと彼は一度悔しそうに呻いて、私から少し離れたところに腰を下ろした。
「自分からくっついてくるのにくっつかれるの恥ずかしいってちょっとどうなのそれ」
「う、うっせえよ!」
さわさわと風が流れる。木の葉が揺れる。光の波が、水面のように地面に降り注ぐ。
「意識すんだろ」
小さく聞こえた彼の言葉は聞かなかったことにしてあげよう。