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いつもの帰り道

 宵口の空は明るい。紺色が明度だけをあげて、ぼんやりと光っている。晃牙くんはそんな空を背負い込みながら、あじいあじいと言葉を繰り返す。少し気の早い蝉が声をあげながら晃牙くんに続いて夏を奏でる。あじいあじい。ミンミン、ミンミン。二重奏は絶え間なく続いて、暑くないと感じていた私までだんだんと暑さを感じてしまう。やめてよそれ。私がそう言うと晃牙くんはピタリと声を止めて、じゃあテメエがこの暑さどうにかしろよ、と言った。無茶振りにもほどがある。

「暑いっていったらもっと暑くなるよ」
「小学生みたいな事言うなよ」
「暑い暑いだって小学生みたいですけど」
「うっせ」

 そして彼はまた言葉を繰り返す。暑い、マジで暑い。忙しく鳴く蝉の音に負けないくらいなんどもなんども。本格的に暑さを感じてきて、鞄から取り出した下敷きで風を煽る。晃牙くんはべこんべこんと音を鳴らす下敷きを見て、テメエも暑いんじゃねえか、と鼻で笑った。

「お互い暑いならよお、アイスでも食って帰るか」
「晃牙くんのおごりで、トリプルね」
「調子乗ってんじゃねえよテメエのおごりで、俺様がトリプルだ」

 ミンミン、あついあつい、べこんべこん。三重奏になった夏の音は、まだ鳴り止みそうにはなかった。