さざなみの合間に肉の焼ける音が響く。おいしそうな音とともに芳しい香りが夏の空にたなびき、たらふく食べたはずのお腹はまた切なげに鳴き声をあげた。打ち上げなのか、はたまた明日への活力のためなのか、ライブが終了したUNDEADと流星隊は手伝いに駆けつけてくれた瀬名先輩や嵐ちゃんを交えて壮大なバーベキューを開催していた。ライブ後だというのに海岸を走って騒いで、流星隊の一年生……そして守沢先輩は波打ち際で楽しそうに声をあげている。そんな彼らを眺めながら、着ぐるみを脱いだ私は紙皿を片手に乙狩くんの焼いてくれた肉を食む。固すぎず、柔らかすぎず。程よい焼き加減のお肉は下の上で綻びとろける。甘辛い焼肉のタレが口の中に広がる。おいしい。とても、おいしい。肉だけではない。野菜だって美味しい。野外で食べるからだろうか、それとも新鮮な食材のおかげなのだろうか。はたまた乙狩くんの手腕なのかもしれない。とびきり美味しい晩ご飯に顔を綻ばせていると、肉を焼いていた乙狩くんは私に手招きをする。
「焼けたぞ」
寄ってきた私のお皿にお肉を放る。ありがとうと伝えると彼は気にするな、とはにかんだ。そしてまた鉄板と向き合う。火の近くにいるからか彼の額には玉のような汗が浮かんでいた。
「代わるよ?乙狩くん食べてる?」
「大丈夫だ、気にしないでくれ」
「そう」
おいしそうな焼き色をつけたお肉は噛むたびに肉汁が広がり幸せを運んでくれる。だらしなく頬を緩めながら、おいしい、と上機嫌に声を上げると乙狩くんは振り返り、良かった、と言葉をこぼす。そしてまた忙しなく鉄板の方を向いて、肉と野菜の頃合いを計る。まるで食材と気持ちが通じ合っていると勘違いしてしまうほど、彼のひっくり返した食材は須らくおいしそうな焼き色が付いていた。
ぱちぱちと、鉄板の上で油が弾ける音が聞こえる。肉を見つめる真剣なまなざしは凛々しく、思わず見惚れてしまう。
「……どうした」
「え?!あ、いや、ううん、なんでもない。邪魔しちゃった?ごめんね!
見られると気が散るよね、向こうで食べてくるよ」
私が早口でそうまくし立てると乙狩くんはちらりとこちらを向いて、気にしていない、と微笑んだ。そしてまた彼は鉄板に向き合う。持っているトングで手前の肉をつまむと、ちょうど良い焼き加減のお肉は照明に照らされててらてらと輝いていた。乙狩くんは私のお皿を見つめる。焼けたぞ、と彼の口が動く。
「貰ってばっかだし、乙狩くんも食べなよ」
「いや、お前に食べて欲しい」
「なんで?」
「お前の食べている顔が好きだからだ」
言葉を失う私のお皿に乙狩くんはお肉を乗せて、また優しい笑みを浮かべた。
「たくさん食べてくれ」