DropFrame

大神晃牙生誕祭2016

 お誕生日おめでとうございます。私の一言に彼は目を丸くして携帯を見た。午前零時を回ったディスプレイにはデカデカと7/18と表示されており、忘れてた、と彼は一言呟く。忘れてたとか。私が笑うと晃牙くんはふてくされたように頬を膨らまして、最近忙しかったんだよ、とそっぽを向いてしまった。そろそろ寝ようとしていたのかアドニスくんは布団に潜り込みながら、大神おめでとう、と言って微笑む。その言葉につられるように、夜も更けてきて俄然元気な朔間先輩は譜面から顔を上げて、わんこも大きくなったのう、と笑う。すかさず隣にいた羽風先輩がさっきと全く変わってないけどね、と水を差しつつ、おめでと、と短く彼に祝詞を述べる。ここまで反応されると思っていなかったらしい晃牙くんは居心地が悪そうに目を泳がせながら、ありがとな、とぼそりと呟く。
 深夜届けの受理書を朔間先輩に手渡しながら、17歳になった晃牙くんを見る。もちろん先ほどと全くなのも変わりはないのだけれど、17歳になったのだ、と思うと何故だか彼が大人っぽく見えた。じいと見つめていると、晃牙くんは八重歯をのぞかせながら、なんだよ!と吠える。

「これわんこ夜に吠えるな」
「そうだよ、アドニスくんが起きちゃうでしょ」
「羽風先輩、俺はまだ寝てない」
「さっさと寝ろ、明日に響くぞ」

 晃牙くんがギターを片付けながらそう言った。つうかもう日を跨いでんなら俺も寝るぞ。そう言いながら部屋の隅に丸めてある寝袋を掴む。アドニスくんはそんな晃牙くんの背中を追いながらふっと笑みをこぼした。

「そうだな、明日は大神の誕生日を祝わなければならない」
「いらねえよばあか」
「そう言いながら祝って欲しいんでしょー?転校生ちゃんが確かケーキ手配してるんだっけ?」
「あ、そうですね、お昼頃には届くはずです」
「ばっかテメエなにしょうもねえことやってんだよ」
「しょうもないとはなんじゃ、嬢ちゃんが一人暮らしで誕生日迎えるのって寂しそうというからこうして集まったというのに」

 朔間先輩の言葉に晃牙くんははたりと動きを止めて私を睨む。ああ、口止めしていたのに本当にこの人は。眉間を押さえながら、ごめんね?と私が笑うと晃牙くんは金魚のように口を開閉させながら部屋を見回す。

「全員集まっての泊まり込み練習ってのは」
「まあ簡潔に言えばわんこの誕生日会じゃな?」
「珍しく練習に参加してるやつもいるっつうのは」
「転校生ちゃんがいるなら泊まるよって言っちゃったからね、ねえ添い寝してくれる?」
「先生呼びますよ?」
「手厳しいなあ」

 羽風先輩の言葉とほぼ同じタイミングで晃牙くんは顔を真っ赤にして床に寝袋を叩きつけた。大きな音とともに衝撃で広がる寝袋。部屋のど真ん中で広がったそれに晃牙くんはそそくさと入り乱暴にジッパーを閉めた。

「寝る!」
「大神、照れているのか」
「うるせえ早く寝ろ!」
「わんちゃんちょっとそんな部屋の真ん中で広げられたら邪魔なんだけどー」
「っせえ寝ろ!」
「わんこや、我輩まだ眠くないんじゃが」
「寝ろ!!!!!!」

 晃牙くんの物言いに私と朔間先輩、羽風先輩は顔を見合わせて苦笑を漏らす。じゃあもう練習は切り上げってことでいいですかね?私の一言に羽風先輩は持っていた譜面を置いて大きく伸びをして、朔間先輩はゆっくりと立ち上がる。

「我輩はもうちょっと練習して行こうかのう、確かもう一部屋とってたはずじゃろ?」
「転校生ちゃんの寝床用にとってた部屋でしょ?朔間さん練習したらねれないじゃんこの子」
「嬢ちゃんは隣で寝ていてもかまわんよ、音を鳴らすのは大丈夫かえ?」
「あ、大丈夫です割と大きな音の中でもねれます」
「そういう問題じゃねえだろ!」

 がばりと寝袋から這い出した晃牙くんは勢い良く立ち上がって私の腕を思い切り引く。テメエはもう少し危機感持て!そう唸る晃牙くんに朔間先輩は、17歳のわんこはしっかりしておるのう、とのほほんと笑った。

 唸り続ける晃牙くんを見て、もしかしてこれは余計なことをしてしまったのではないか、なんて考えがよぎる。彼のTシャツの裾を引っ張ると晃牙くんは険しい顔をして振り返った。私は彼に聞こえるくらいの声量で、もしかして余計な御世話だった?と尋ねる。途端に彼の顔が崩れて、しどろもどろにまた瞳が揺れる。晃牙くんはそのまま私の髪をくしゃりと撫でて、本当に本当に小さな声で、ぼそりと呟いた。

「嬉しかったよ、サンキューな」

「ほれわんこも嬉しいと」
「うっせーな!地獄耳かよテメエ!」
「男のツンデレとかマジげろげろなんだけど?流行るとおもってるわけ?
 それとも17歳になったから許されるとか思ってるの?」
「うっせえ!!!」
「大神、明日は何が食べたい、肉か?」
「テメエはさっさと寝ろアドニス!」

 吠え続けるいつもの晃牙くんに思わず笑みがこぼれる。地団駄を踏み出した彼の肩を叩いて、晃牙くん誕生日おめでとう、と私が言うと彼ははたりと動きを止めて、おう、と短く返事を返した。

「大神、おめでとう」
「わんちゃんおめでと、17歳になったならもうちょっとおとなしくなってよね」
「おや、17歳ということは薫くんと同じ年じゃな?なんにせよめでたい、おめでとう、わんこ」

 一斉に祝福を受けて、彼は居心地の悪そうにまた身をよじる。そして照れ臭そうに乱暴に頭をかいて、ありがとな、と一言呟いた。