今まで気付かなかった煌めきが、彼女というフィルターを通すと見えてくる。例えば大吉と散歩していたときに見つけた綺麗な花だとか、近くの繁華街で曜日限定で売り出されているパイだとか、目に映る全てが彼女と結び付いて、一層に輝きを増す。ああ早く伝えたい!逸る気持ちを胸に抱きながら彼女の顔を思い浮かべて、込み上げる感情のままに頬を緩ませてしまう。
決まってそんなとき、大吉は嬉しそうに吠えてくれるけど、ホッケ~は呆れたように俺を見て、隠すことを覚えろ、と口煩く行ってくる。別に隠すなんてやましいことじゃないのに。ホッケ~はもう少し、大吉の柔軟性を見習うべきだよね。
確かその日はなんでもない1日で、授業を受けて、転校生とちょっと話をしてーー後ろでウッキ?が羨ましそうに見てたの知ってたけど、見えてないふりしてごめんーーユニット練習をして、帰ったら大吉の散歩に行かなきゃなあと思いながら靴箱から靴を取り出していた。丁度夕日がアスファルトに反射して、まるで宝石みたいにキラキラと輝いていたから、靴紐を結ぶことも忘れて俺は外へと飛び出した。ああこんな風景彼女と見れたらいいのに!頬を緩ませながら夕日と、輝くアスファルトを見つめていると、後ろから転校生の笑い声が聞こえた気がしたんだ。幻聴かな?と思いつつ振り返ると、そこにはやはり彼女が眉尻を下げながら口元を押さえて、くすくすと笑っている。丁度下校途中?もしかして、俺の願いが通じたのかな?
「スバルくん、靴紐ほどけてるよ」
慌てて足元を見ると、確かに解けた靴紐。そうか、靴紐結ばずに飛び出しちゃったんだっけ。屈んで靴紐を結びながら転校生の顔を見上げた。彼女の髪の毛が風に遊ばれながら夕日に照らされてキラキラと輝きを放っていた。今まで見た中でも一等綺麗なその輝きに思わず目を奪われて手を止めてしまう。彼女は動きを止めた俺を見て、困ったように首を傾げた。
「結んであげたほうがいい?」
「靴紐くらい自分で結べるよ!転校生今帰り?」
「うん、丁度用事も終わったから帰ろうと思って」
じゃあ一緒に帰ろ。俺の提案に彼女は微笑みながら、首を縦に振った。きゅっとしっかり靴紐を結んで立ち上がる。そして彼女の隣に立って、行こう、と笑うと、転校生は嬉しそうにはにかんで、うん、と返事を返してくれた。
「そういや転校生、あれ知ってる?いつものアイスのお店で新作が出たんだって」
「え?そうなの?知らなかった」
「この前ホッケ?と帰ってたら看板が出てて、これは転校生に知らせなきゃと思って」
「アイスかあ、食べたい季節になってきたもんね」
「でしょ?あとさ、この前公園で……」
光るアスファルトを踏みしめながら、彼女にこれまで見つけたものを一つ一つ話していく。口から止め処なく溢れる話題に、もしかして世界は輝きに溢れているのではないか、なんて錯覚を覚えてしまう。でも俺はちゃんと知っている。確かにキラキラしたものは多いけど、実はそんなに輝いていないものも混じっていることを。それでも彼女が俺の話を嬉しそうに聞いてくれるから、そうでない話題も、彼女の微笑みによって輝きを放つんだ。
こんな気持ちを抱いたのは初めて。全てが輝く感覚も、無意味に高鳴ってしまう気持ちも、ライブのサイリウムの海に負けないくらいの、目がくらむほどのキラキラ。きっとこの「友達」なんて安全圏を踏み越えたら、もっともっとキラキラした世界が見えるような気がするんだ。
「スバルくん、素敵なものを見つけるのが上手なんだね」
違うよ、きみが上手にしてくれているんだよ。輝く彼女の笑顔を見ながら、言葉にすることのない気持ちを胸にそっと仕舞った。この気持ちを伝える言葉はまだ、きみと釣り合うくらい俺が輝けるようになるまで取っておこうと思う。
「また見つけたら俺が教えてあげるよ!楽しみにしててね!」
ああ、早く君と一緒にこのキラキラした世界が見たいなあ!