鋭いシャッター音が空を割く。反射板から照明から、光に愛された瀬名先輩はいつもよりも一等に美しい。まるで雪のような真っ白な背景に、ぱしりぱしりと無機質な音が響く。音が鳴るたびに彼はポーズを表情を適切に変えてレンズを睨みつける。ぱしり。先輩の一瞬が切り取られる。データの粒子となった先輩は、別枠のディスプレイに表示される。次々と流れてくる写真は確かにその瞬間を切り取っているものなのに画面の向こう側には先輩が息衝いていた。射殺すような瞳にぞくりと肌が粟立つ。いい写真でしょうと、カメラアシスタントさんが笑う。私も曖昧に笑みをこぼして先輩の写真を見つめる。今にも動き出しそうなその写真から目が離せない。これがモデルの瀬名泉なのか。
「本物差し置いて写真ばっか見るのってどうなの」
「ぎゃあ!」
「ちょっと騒がないでくれる?」
流れてくる画像に見惚れているとおおよそ手加減のない力で頭を叩かれた。瀬名先輩はどうやら撮影の休憩に入ったようで、オーバーオールを羽織りながら忌々しげにスタジオを眺めた。空調効きすぎじゃないの。そう言って服の襟を合わせて眉を寄せた。確かに彼の言う通りスタジオは寒い。しかしそれは煌々と照らす照明の下でも暑くないような配慮だということを私は知っている。一瞬言いかけた言葉を飲み込んで先輩に水の入ったペットボトルを渡すと、彼は満足げにそれを受け取って口に含んだ。
「気がきくようになったじゃん」
彼はくるくると巻かれたコードを器用に避けながら私の隣に立った。そして先ほど撮り終えた生の写真データを一緒に眺める。大きなディスプレイに映し出された瀬名先輩は、やはりどれもこれも目を奪われる。
綺麗です。私がそう呟くと、彼は特に興味もなさそうに、ふぅん、と呟くだけ。やはりモデル歴が長いと見慣れるのだろうか。ディスプレイから目を離して隣に立っている瀬名先輩を見つめると、彼はディスプレイではなく私を見つめていた。
アイスグレーの瞳がゆっくりと瞬く。彼の長い睫毛が揺れる。彼はおもむろに手を伸ばして私の頬に触れた。ほんのりと汗ばんだ手のひらは、私の肌をなぞりながら穏やかに滑り落ちる。
「写真ばっか見てないでこっち見なよ」
それはデータで綺麗に切り取られた笑みではない、挑発的で、少しいびつな、いつもの先輩の笑顔。彼は私の頬をつねり笑う。何見惚れているの。私は痛さに顔を歪めながら不平を口にする。ほっぺたがいたいです。
画面の向こうの、世の中に流通する瀬名泉は美しく彩られている。しかしこういった人間臭い瀬名泉は私しか知らない。少し勝ち誇った気分になって口元を緩めると、生意気、と言葉とともにまた頬をつねられた。