くんくんと鼻を鳴らす可愛らしい後輩は、両手でリュックサックの紐を持って帰路を行く。夕焼けに照らされて長い影を追いながら、追いてかないでね、と伝えると、彼は即座に振り返り私の元へと走り戻った。おいしそうな匂いがしたでござるよ!彼は開口一番そう言って今駆け抜けた道を見つめる。確かにどこからか香ばしいいい香りがする。晩御飯だろうか。斜陽落ちる空を見上げて、晩御飯どきだからねえ、と呟くと、忍くんは、そうでござるな、と腹の音を鳴らしながら呟いた。
護衛という名目で帰っている私たちは、忍くんが少し先を歩き、私が後ろからのんびりと歩くテンプレートが出来上がっていた。少し私が歩調を早めれば忍くんも走るし、忍くんが少し止まれば私も歩みを止める。不思議な距離感だな、とは思う。隣同士歩けばいいのにそれは「護衛」でなくなるから嫌らしい。
「なんだかおいしいもの食べたくなってきたねえ」
「拙者兵糧丸しか持ってないでござるよ」
おいしいものと言ったのに。彼はポケットをまさぐって小さな巾着を取り出して手のひらに兵糧丸を転がす。滋養強壮によい、そんな噂を聞いたことがあるが、現在それを必要としていると言われたら首を傾げてしまう。どちらかといえば少し体に悪そうな味。例えばジャンクフード、ラーメン、そんな現代風の食べ物が恋しいと腹の音も言っている。
「コンビニで唐揚げでも買う?」
「唐揚げ!」
「奢るよ、いつも護衛してくれるお礼ですよ、忍者さん」
「ご、ご主君にそう言われると照れちゃうでござるよ」
私の提案に彼は浮かれた足取りで前を歩く。踊るように揺れるリュックサックを見ながら、やっぱりかわいい後輩だな、と思った。可愛くて、頼りになって大切な私の後輩。私の忍者さん。
追いて行かれないように私も歩く足を速めた。斜陽に照らされた影が徐々に距離を詰めて、ひっつく。二つ重なった影は仲良く細く伸びながら、地面に濃く跡を残した。