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紙飛行機

「紙飛行機?」
「紙飛行機」

 屋上。天気は晴れ。南南西の風が穏やかに吹く。手元をひたすら動かし続ける私に、隣にいたアドニスくんは不思議そうに首を傾げた。横には4つの紙飛行機。そして手元には折りかけの紙飛行機がひとつ。しっかり爪をたてて形作ると、アドニスくんは、飛行機?と言葉を繰り返した。完成したそれを渡すと、彼はひどくおっかなびっくりそれを触り、飛行機、と腑に落ちないように言葉を吐いた。

「飛ぶのか」
 彼があまりに真剣にそう訊くので私は少し笑って、飛ぶよ、と教えてあげた。夏空にふさわしいほど青々とした空を指差して、めっちゃ飛びます、というと、彼は目を瞬かせ、それがか、と呟く。

「これがです」
「なにかつけるのか」
「つけないです、これだけです」
「本当に飛ぶのか?」
「飛ぶよ!」

 私が大きく振りかぶり作りたてのそれを離すと紙飛行機はまるで青空に吸い込まれるように高く高く空へと舞い上がる。アドニスくんは、おお、と感嘆の声を漏らしながら私の横にある四機の紙飛行機を見つめる。瞳に好奇心を浮かべながら、飛ばすのか、と一言。私はその中の二つをつまみ上げてアドニスくんに渡す。

「半分こしよう」
「どう飛ばすんだ」
「こうひゅっと」
「ひゅ?」
「力を入れないで、風に乗せる感じで」

 私が一機また風に乗せると、真っ白な紙飛行機は青空を泳ぐ。アドニスくんも見よう見まねで青空に紙飛行機を飛ばす。ゆらゆらと不安定に揺れながら、紙飛行機はご機嫌に外へと飛び出した。

「飛んだ」
「飛ぶって言ったじゃん」
「そうだな」

 半ば興奮気味にアドニスくんは言ってもう一機空へと投げ出す。私も最後の一つを大きく飛ばす。真っ青な空に漂ういつつの紙飛行機。穏やかな潮風に揺られてゆっくりと、夏空に浮かぶ。

「ところであれはどうした」
「ああ、蓮巳先輩にこっぴどく駄目出しされた資料の数々です」
「よかったのか?」
「いいのいいの、供養供養」

 そう言って笑う私に、彼は供養なら仕方ないな、と笑ってくれた。青空を泳ぐ飛行機はしばらく落ちそうにもない。願わくば蓮巳先輩の目の届かないところまで、どんどんどんどん飛んでいけ。