____________________
あなたは
『今ひどい顔してるんだろうな、って気付いて
何とかしようと無理やり声を出して笑ってみた』
アドあんを幸せにしてあげてください。
https://shindanmaker.com/474708
____________________
笑うな、と彼は多分、今まで私に向けたことのないような強い口調でそう言った。大股で歩みより私の涙でまみれた顔を指先で拭うと、ひどい顔だ、と彼は眉間にシワを寄せて、なおも止まらない涙をぬぐい続ける。私は拭われるまま、見ないでほしいと震えた声で彼に懇願する。彼は一度頷いて、私の頭を抱えそのまま自分の肩口へと持っていくと一言、これで見えないだろう。そういう意味合いじゃないんだけど、と頭の中で思いながら不器用な彼の優しさを享受する。
同じブレザーなのに、彼の上着からはお香のような香りがした。少しだけ顔をあげると彼の銀色のピアスが、間近に見える。ピアスに映った私はひどく醜い顔をしていて、思わず苦笑いを浮かべる。格好悪いね、私が笑い混じりにそういうと彼はまた、笑うな、と一言、強く言い聞かせるように言った。
「もどかしい、俺には何も出来ないのか」
「そんなことないよ、こうして、慰めてくれるだけで十分」
「……お前は、優しいな」
慰めも、こうして抱き締めることしかできないのに。口惜しそうに彼がそう言うので、私は彼の肩口に顔を埋め、それで本当に十分だよ、と伝える。また込み上げる悲しさにぐずりと鼻をならすと、アドニスくんは私を引き剥がして、自らの正面に立たせた。虚勢も格好つけもできない、弱々しい私が、今ここにいる。紫に浮かぶちっぽけな私をみて、アドニスくんは強く頷いて、名前を読んだ。
「俺は人よりも大きい、お前一人くらい覆い隠せる」
彼の言葉に耳をそばだてながら真っ赤になった鼻をぐずりとならすと、アドニスくんは私の頭を撫でて、だから、と言葉を続けた。
「困ったり、悲しくなったら俺の胸で泣くといい」
彼は優しく、私を撫で続ける。
「俺がお前の盾となろう」
アドニスくんの優しい言葉に胸が締め付けられまた涙をこぼすと、彼はその大きな手で私の背中を抱き、自らの方へと引き寄せた。
「だから、自分の気持ちを、偽るな」
彼の胸元に顔をすりよせると、アドニスくんは抱き締める強さを少しだけ強くした。優しい柔い痛みは穏やかに私を包む。暖かな彼の胸の中で目をつむりながら、小さく、ありがとうと呟いた。