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あなたは
『気付いた時にはもう全部手遅れだった』
薫あんを幸せにしてあげてください。
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文字通り恋に溺れた。あれだけ鬱陶しく感じていた彼の軽薄な言葉さえ、恋のフィルターを通すと厚みのある、甘美な響きに思えた。恋する乙女ってすごいと冷静に見る私と、彼の一言一言に舞い上がる私が、心の中に共存している。
「ねえ、食べないの?それ」
よく晴れたガーデンテラスは、芳しい花の芳香で満たされていた。風が吹くたびに風上にいる先輩からほんのりと海の香りがする。花々よりも細やかな香りのはずなのに、胸がギュッと締め付けられて息が出来ない。眉を潜めてスプーンを置く私に、彼はにこりと笑いスプーンを取り上げて目の前にあるアイスを掬う。そしてさも当たり前のようにわたしの口許にそれを寄せて、どうぞ、なんて微笑むので私はかたくなに口を結び、首を降った。
「お腹一杯?」
「そうじゃ、ないです」
「食べたくないの」
私は首を横に振って机の上で固く拳を握る。だめだよと、冷静な私が囁いた気がした。後戻りできなくなるよと、彼女は言う。
「息が、苦しくて」
警告のように胸が高鳴る。うるさいほどになる鼓動に私は顔を顰めた。が、眼前の先輩はそんな私をみて、柔く表情を緩めながら、うん、と呟く。
「助けて、くれますか?」
もう手遅れだったのだ。きっと。はじめから惹かれていて、でも冷静な私がそれを引き留めてくれたのに。心の声はもう聞こえない。羽風先輩は固く握られた私の手をとると自分の胸元に引き寄せながら、口を開いた。
「俺が捕まえても構わないなら」