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いのちのなまえ

 それは木漏れ日。風が揺らすたび川面のようにきらきら揺れる光の波。

 ゴーグルに太陽の光が反射して、きらりと光りをこぼす。
今日もいい天気だな。少し汚れたマントが風になびいている。
風はマントから隣に立つ癖毛をゆらりと揺らす。
今日は暑いなあ。彼の小さな上着が膨らんだりしぼんだり、せわしなく呼吸をする。

 それに呼応するように深紅の髪が左から右へゆらりと流れる。
暑いのは今日もだろ。
彼女が大きく伸びをした。
骨が軋む音と、それをからかう彼の声。
噛み付く彼女の声。
忙しいはずなのに、なぜか穏やかに空間に響く。

 それなら明日もきっと暑いわね。
隣の応戦を聞いてくすくすと笑う彼女の頭が揺れるたび、
少し遅れて栗色のポニーテイルが跳ねる。
そんな声に惹かれるようにゆらり銀髪が揺れて、そうだな、と控えめな声が響く。

 とても懐かしい情景。
ありふれてて、あたりまえで、もうきっと見えない。
懐かしい、景色。
彼らの名前を呼ぼうと喉が小さく震える。
すると木漏れ日が解けるように、目の前から消えて、


* *  *   *     *


 それはとても間の抜けたような青が目の前に広がっていて、
僕はのっそりと体を起こした。
僕のお腹を枕代わりにして寝ていたパンディットが、突然の振動に不満そうに唸る。
僕は枕じゃないんだけどと、文句をこぼしながら彼のたてがみを梳いた。
それはまるで晴天の空を吸い込んだように暖かく、とても穏やかだった。
僕は彼を抱き寄せてたてがみに顔を埋める。


「ちょっと、懐かしい夢を見ていただけ」


 僕が少し大人になった、短くて長い、冒険譚。
懐かしい後ろ姿は今でも僕の目に焼き付いている。
彼らはいつでも、僕のヒーローだった。
憧れだった。
目標だった。

 普段なら嫌がるはずのパンディットは僕の気持ちを察したのか、
振り払うわけでもなくただおとなしくそこに立っていた。
くうんと、一言、鳴いて僕のお腹に腰を下ろす。
僕は頭を垂れるようにまた深くたてがみに顔を埋めた。
太陽の香りが、僕を穏やかに包む。

さびしくなんてないよ。

浮かんだ言葉を口に出すかどうか迷って、飲み込んだ。
残酷なほど暖かいたてがみに包まれて、僕はもう一度、目を閉じた。