燻る硝煙が目に染みると、ぽつりとぼやき声。
シュウはじろりと声の主を睨み、知らんとその言葉を一蹴した。
そしてトッシュの足元に転がるモンスターを見て、
シュウは構えていた散弾銃の銃口を肩に乗せてひとつため息。こ
いつで最後だったようだな。熱を持った銃がちりりと鈍く肩を焼く。
思った以上に手間がかかってしまった。
頬から垂れる血を乱暴に手で拭う。
これは自分のものだろうか、それとも。
いや、考えても詮無きことだ。
ふと自身の服を見下ろしてみると、——黒色なので分かりにくいが——
大量の血で濡れていることに気がついた。
脳裏にしかめっ面のシャンテとサニアが自分の服を洗濯している光景が目に浮かび、
ああ、また怒らせてしまう、とシュウは一つ舌を打った。
勿論戦火に身を置いているので、仕方ない話ではあるのだが。
*
一方トッシュは自身の刀にこびり付いた血を軽く振り払うと丁寧にそれを鞘に納めた。
ここら辺にはもうモンスターも輩もいないだろう。
いたとしてもこの光景のなか突っ込んでくるやつはいないよな。
死屍累々という言葉が似つかわしい辺りを見回して、苦笑を浮かべた。
悪いな、俺たちも生きなきゃいけねえんだよ。
心の中で詫びの言葉を呟く。届くことはないと知っていても、それでもなお。
トッシュはべっとりと血に濡れた服を指でつまみながら
「こりゃ、リーザ達に見せるわけにもいかねえよな」
と自嘲の笑みを浮かべた。シュウもそれを見、
「……近くに水辺があったはずだ」
と銃を肩に担ぎ直して歩き出した。
生きることは簡単だ。
要は勝てばいい。負けなければいい。負けたとしても、死ななきゃいい。
ごろりごろりと転がる死骸を踏まないよう、跨がないように道を選んで進む。
墓を作ってやる義理などないが、蔑ろにする程落ちぶれてはいない。
血溜まりの水たまりを避けながら、早足で立ち去る相棒の背中を追う。
「ついでによう、酒でも一杯飲んで帰ろうぜ」
「馬鹿か、金がないんだぞ」
「無いつったって一晩くらい明かせるくらいはあるだろうが」
「却下だ」
「なーんだよお堅いヤツ」
悪態をついても何も返ってこない。
シュウの背中を見て、ちぇ、とトッシュは唇を尖らせた。
ふと足元を見ると薄らとだが、赤いブーツの足跡が、地面に軌跡を描いている。
戦う為に生きるのか。
それとも、生きる為に戦うのか。
要は明日に繋がればいいだけの話だ。明日も生きて、戦って、戦って、生きる。
うすら染まった土を乱暴に蹴り飛ばして、
シュウの背中に追いつこうと、トッシュは足を速めた。
——それが俺であり、コイツであり、それが俺たちの、生き様だ。