夏の暑さがゆるりと解け、夜の時間が少し長くなって来た頃。
あれだけやかましく鳴いていた蝉の声が何処か遠くに聞こえ、
夏の終わりが近付いてきたのだと、そんなことをぼんやりと考えた。
そうしてすぐその後に、あたしらしくないな、と心の中で舌を打つ。
「季節を感じる」なんて自分の世界とは何処か遠くの、
別の次元に生きている人たちが分かち合うものだと思っていた。
少なくともぎりぎりで生きてきた自分が、こんな風に考えるなんて思ってもみなかった。
口元をスイカの汁で真っ赤に汚しながら、
夏が終わるなあ、と真っ先に呟いたのはルッツで、
それに続くようにテオが、今年もこうして終わっちゃうんですねえ、
なんて生意気にも口にしながら空を仰ぐ。
フォレスタモールの夜空はまるで宝石を散りばめたように星々が輝き空を彩る。
テオの目線を辿るようにあたしも同じように空を見上げて、
夏が過ぎる、と言葉をなぞるようにぼそりと呟いた。
未だに気温が高い日々は続くが、
少しだけ風が涼を運んで来てくれているような、そんな気もする。
「秋が来たらみんなで紅葉を見に行きましょうか」
追加のスイカをお盆に乗せて、
リーザさんは微笑みながらルッツとテオの間にそれを置く。
スイカに対してなのか、それとも先程の言葉に対してなのか、
ルッツとテオは歓声を上げてハイタッチを交わしていた。
パンディットはその光景を嬉しそうに眺めていて、
あたしはというと手元に残っているスイカと、
夏の終わりについてただただ咀嚼を重ねる。
夏が終われば秋が来て、それが終われば冬がくる。
ただそれだけの話じゃないか。
自分の生活に多少影響は出るものの、
プラスになったりだとかマイナスになったりだとか、
ましてや楽しみなんてそんな事を考えた事はない。
考えたことは、なかった。
「紅葉も楽しみですけどー!秋なら美味しいものが沢山食べられますね!やったー!」
「収穫の秋って言うしなー!
うっひょー!楽しみ!早く秋こねえかなあ、なあシェリル!楽しみだな!」
「全く……単純だね、アンタ達は」
「そんなこといいつつもシェリルさんだってちょっと嬉しそうじゃないですかー!」
「なんだかんだで食いしん坊だからなあシェリルは」
「馬鹿みたいにスイカで顔を汚してるヤツに言われたくないね」
「お前だって口の回り真っ赤っかじゃねえかよ!」
「わー!また喧嘩する!!たまには仲良くしましょうよ二人ともー!」
遠くで鈴虫の声が聞こえる。
今まで「違う世界だ」と突っぱねてきた沢山のなにかを抱えてやってきた、
秋の足音が聞こえた気がした。
騒がしい馬鹿達と迎える今年の季節は、騒がしくなるだろうと、
なぜだかそんな予感がした。