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手と手が触れ合うもっとずっと前のシーン_ver.2 【02/sideS】

 馬鹿じゃないのと鼻で笑っていた感情に、そろそろ向き合うべきなのかもしれない。

 巷の女の子のように四六時中夢中になっているわけではない。断じてない。
もしかしたら一時の気の迷いかもしれないし。
そういえば最近寝苦しい季節になってきたし、そのせいかもしれない。
真夏の夜の悪夢。
ううん、ぴったりではないか……いや、だめだ。

 自分の中でごまかしの効かない、このやり場のない気持ちは何だ。
突然胸の奥が遣り切れない何かに包まれる。
その瞬間は規則性がなく、ふとした拍子に顔を出してくるから困り者だ。
例えばアイテムを見かけたりだとか、陳列しているナイフが目に入ったときだとか、
ああ、なんて事だ。
全てアイツ関連じゃないか。たまったもんじゃない。

 熱を帯びた風が頬を撫ぜる。
風に運ばれてほんのり香る鉄の匂いは、どこかあたしの気持ちを安心させた。
懐かしい匂い、心地よいとは言えないが、あたしの育った、街の匂い。


「なにやってんだろうな、あの馬鹿は」


 無駄に広い背中だったりとか、無造作に束ねられた髪の毛だったりとか、
思えばあの頃は当たり前のように隣りに居て、息をするように諍いあった。
嫌いかと言われれば首を傾げる存在で、まあ気に食わなかったけど、
悪いヤツではなかったように思える。
そうしてヤツを思い返すと、やはり胸の中にもやりとしたなにかが、巣食ってしまう。
なんだろうかこれは。
まさか、いやまさかな。

 自覚するには少々早い気持ちに苛まれながらも、足早に仕事場へ向かう。
願わくば吹く風に涼を感じる頃には、この気持ちが落ち着いていますように。

 初夏の熱風が、あたしをあざ笑うかのように隣りをすり抜けていった。
何故だかそれが妙に癪に触って、あたしはほんの少しだけ足取りを速めた。