手を差し出す先にきみが居ればいいなんて、全くもって都合の良すぎる話だろうか。
会いたいなあとぼんやり思いだしたのはいつだったか。
それが淡い気持ちからはっきりとした意思に変わったのはいつからだろうか。
昔は手が届く範囲に居て――もちろん手を伸ばそうなんて考えた事もなかったけど――
今じゃ手の届かない場所に居る。
そもそも定住してるのか怪しいもんだし、あのままギスレムに帰ったのか、
それとも他の場所を点々としているか、定かではない。
まるでペンキで塗りたくったような怖い程青い空には太陽が爛々と輝いている。
俺の気もしらないで、なんて悪態を吐いてみても陽光は平等に世界を照らす。
そろそろ暑い季節がくるな、なんて手袋を外すと、
涼しい風がぴゅうと指の隙間を通り過ぎた。
何故だかそれが妙に悲しくて、もう一度手袋をはめ直す。
手袋の内側のじっとり汗に濡れた感触に顔を歪めながらも、
それでも手から零れていくようなそんな感覚になるよりはましだと、
しっかりとはめ直す。
「これからどうするとか、聞いときゃよかったな」
聞いても絶対教えてくれないだろうけど。
顔を歪め、アンタには関係ないでしょ、なんて
突慳貪(つっけんどん)に対応する姿が容易に想像できて、少し可笑しい。
思えばアイツと俺の関係なんて水と油、同極同士引き合う事などないはずだったのに。
長く一緒に居すぎたせいか。いや、もしかしたら、そうではなくて。
「(――実は惹かれあっていた?……なあんてな)」
蹴り飛ばした小石は色濃い影を落としながら遠く遠くへ飛んでいく。
湿気を含んだ風が夏の訪れを告げる。
季節が一巡した事に少々の感傷を巡らせながら、もう一度、小石を蹴り飛ばした。