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音を立てて声を上げて、世界が君を祝福する!_2

case02_彼がまだ少年だった頃の話


「今日はエルクの好物だってさ」
「お!マジかよ!」


 読んでいた、否、眺めていた新聞をばさりと机の上に置いて、
エルクはアークに目線を投げた。
「新聞を読んでいると知的に見える」と言う女性陣の会話を耳にしてからというものの、
エルクの傍に新聞が置いてある事が多くなった事をアークは知っている。
そして実は全く読めていないし、
たまにある広告の写真を眺めているだけのことも知っている。

 今日のめぼしいニュースは?とアークが尋ねると、
今日はまあまあ、という頓珍漢な返事が彼の口から零れた。
度合いの話をしているんじゃないんだけど、と言いたくなる気持ちを抑えて、
新聞に目線を移す。
そこにはくっきりおとといの日付が刻印されていて、
思わず吹き出しそうになる口元をきゅっと締める。
きっと気がついてないんだろうなあ。

 アークの視線に気がついたのか、
エルクは一度勝ち誇ったような笑みを浮かべて片手で新聞を持ち上げる。


「アークも読むか?」
「いや俺はいいよ」


 やんわりと誘いを断りアークは近場にあった椅子に腰掛けた。
エルクは、面白いのになあなんて呟きながら新聞を四つ折りにする。
面白いのはお前だよ、と心にふと湧いた言葉に、
にやけそうになる口元を押さえて、アークはエルクを見つめた。

 彼の興味はもはや新聞には無いようで、
ぼうっとシルバーノアの天井を見つめている。
そっかあ晩飯楽しみだなあ。
エルクがぽつりと零す。
良かったじゃないか、と声をかけると、彼は破顔して、
ラッキーだよなあと夢心地で呟いた。
この様子だときっと今日が自分の誕生日なんて露にも思っていないのだろうなあ。
抜けているというか無頓着というか。


「エルク、今年の抱負は?」
「は?ほうふ??正月じゃねえんだからなんだよいきなり」
「いいからほら、目標とかないのか」
「もくひょーなあ……まあとりあえず強くなる事だな」
「ははっエルクらしいな」
「なんだよ急に変なやつ」


 そうして彼はまた読めもしない新聞を開いてじいと眺める。
アークはそんなエルクを肘をつきながらただただ眺める。
昨日よりもひとつ、大人になった彼を、確かめるようにじいっと眺めていた。