DropFrame

不器用な君の結晶

 外はこんなに寒いのに、心は嘘のように暖かい。
不器用な包装も、漂う甘い香りも、新鮮でくすぐったくてなぜだか頭がくらくらする。
らしくないなんて笑い飛ばしてやろうと意気込んでいたのに、
そんな意思なんて吹き飛ばしてしまうから彼女は強い。本当に強い。

 手のひらに置かれた拙いチョコレートは
お世辞にも綺麗でおいしそうとは言えないものだし、
包みだって目を奪われる程綺麗にしているわけでもない。
買ってきたもののほうが何倍もおいしそうに見えるのに、
やっぱり俺はこっちのほうが良いかなって思ってしまう。
俺って多分単純で、馬鹿。


「なんだよ……笑うなら笑えよ、それでも、あたしが、がんばって」


 消え入るようにごにょごにょと口の中で言葉を転がすシェリルは、
やっぱりいつもよりも何倍も可愛いし、誰にも見せたくねえなあと思う。
でも口に出して伝えると馬鹿にされそうだしなにより
俺様そんなこと口に出せる程度胸はないから、
素直な賞賛をぐっと心に押し込めて、笑う。


「はー、シェリルがねえ、頑張って手作りをねえ」
「い!いいだろ!一応マーシア監修だから味は悪くない、はずだし」
「まあ材料が美味いなら出来るもんも美味いだろ」
「な!ほんっとアンタって減らず口!」
「ところで」
「なにさ」
「アレク達にもあげたのか?」


 そういうと彼女は顔を真っ赤にさせてそっぽを向く。
そうしてぼそぼそっと、アレク達にはマーシアと作ったのをあげたの。
といつもの彼女とは思えない程か細い声で呟いた。
シェリルの顔を見つめると、彼女は唇を尖らせて、言葉を続ける。


「アンタにはその不格好なのがお似合いと思ったからそうしたのよ!」
「まあアレク達が貰っても困るだろうしな、しゃあないから俺様が処理してやるよ」
「処理ってアンタねえ……」
「ちなみにまだ残ってんの?これって」
「え、まあちょっとは残ってるけど、後でマーシアと食べる用にと思って」
「ふうん……それも全部くれよ、マーシアが腹痛起こすと大変だろ」


 突飛な提案に怒号が飛んでくると思ったが、
彼女は俺の言葉に顔を上げて、確かに、と神妙に呟いた。
なにこの素直さ。もしかしてこれそんなやばいやつなの?
嫌な予感がよぎるが、頭を振って考えを押し出した。
いや、そんなことはない。万が一そうだったとしても、俺は食べる。
腹を壊してでも俺は、食べる。

 でもマーシアにも世話になったしな……。
差し出すか差し出さないか考えあぐねいているシェリルの背中をを軽く押すと、
彼女は驚いたように目線をこちらに投げて、不満そうに頬を膨らます。
なんだよ、いきなり。


「いいから持ってこいって」


 その一言に決心したのかシェリルは泊まっている部屋の方向へ走り出す。
途中で振り返って、ちゃんと待ってなさいよね!と張り上げられた声に、
手を振りながら答える。
さっさとしねえと部屋に戻るからな。

 そうして誰もいなくなった廊下でふううと深いため息を吐いた。
まったく、この手のことに関してシェリルは非常に疎いというか馬鹿というか。
しかしながら扱いやすくて非常に助かる。
だって俺だけに作られた特別のチョコなんて、誰かに渡したくねえじゃんかよ。

 不格好なチョコレートをひとつつまんで口に放り込むと、
少しほろ苦いカカオの独特の甘さが口の中に広がった。
なんだ、見た目よりは全然悪くねえなあ。

 体重を壁に預けると、ひんやりした温度が体に伝わってくるのに、
心だけは何故か暖かい。
ざらりとしたチョコレートの舌触り。
あいつちゃんとテンパリングしなかったな。
しかしそれが何故か心地よくって笑えてくる。

 二つ目のチョコレートを口に運びながら彼女を待つ。
きっともうすぐ彼女は残ったチョコレートの包みをもってやってくるだろう。
戻って来たら言ってやろう。

 お前からもらったチョコ、ざらざらしてるし、ちょっと苦い。
 一ヶ月後、ちゃんと俺様がお手本みせてやるから待ってろよな。