柔らかな体温とは言い得て妙なもので、
左肩に乗っている暖かい感触に頬は先ほどからずっと緩みっぱなしだった。
きっとこれが別の女だったらこんなに頬は緩まないと思うし、彼女だから、
そうリーザだからこそ、エルクの心臓はどこどことうるさい程にリズムを叩いてる。
しかしそんな彼の気を知りもしない彼女は、
安心しきった顔ですうすうと寝息を立てていた。
全く、暢気なやつ。
一言文句を言ってやりたい気持ちもあるのだが、
いかんせん彼女の寝顔はどんな悪態でも吹っ飛んでしまう位可愛い。
間近でその表情を見てしまい、にへら、とエルクの頬はまただらしなく緩んでしまう。
そこまで気にした事はなかったのだが、
こうして俯瞰から見てみると彼女の睫毛の長さに嘆息してしまう。
長ければいいのか、短い方がいいのか、男のエルクにはいまいちピンと来ないのだが、
寝息とともに緩やかに上下するそれは非常に愛らしい。
触れたい気持ちをぐっと押さえて、ただただ揺れる睫毛を見下ろす。
長いよなあ、目に入らないんだろうか。
こうして見ると普段気がつかない事って多いよな。
思った以上に彼女の髪は柔らかい事。
あわせて、花のような匂いがほんのりと香ること。
シャンプーの香りだろうか。なんで女の子ってこんないいにおいがするんだろうな。
しかしこうして無防備に眠られると男としては立つ瀬がない。
危機感がないというか、エルクだったら安全!という気持ちが彼女の中にあるのだろう。
いっその事俺が男だって意識させて―—いや、いけない。
強引に攻めて、
エルクの馬鹿!変態!スケベ!なんて言われた日にはきっと立ち直れない。
彼女の重心がすこし前に倒れ、エルクの肩が急に軽くなる。
アブねえ!と心の中で叫びながら、地面にぶつかる寸前で彼女を腕で抱きとめた。
衝撃で起きちまったか?とおそるおそる顔をのぞくが、
当の本人はやはりすやすやと夢の中。
疲れてんのか、図太いのか。
エルクは安堵の息をついてそっと彼女を床に寝転がす。
手短な毛布をたぐり寄せてそっと彼女にかけてやると、
リーザは嬉しそうに毛布にくるまり、またすうすう寝息を立て始めた。
「おやすみ、リーザ」
左肩に残っている体温をそっと手で撫でて、エルクは頬を緩ませた。
まあ、まだ安心できる存在でもいいか。
眠っている彼女に微笑みかけて、ぱちりとエルクは電気を消した。