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世界の片隅で、君と泣いている

 どうして恋をしてしまったの、なんて愚問なんだろう。
きっと貴方の見つめる先には私がいないのに、
どうしてこんな事になってしまったのだろう。
この涙を拭ってくれる指も、優しく頭を撫でてくれる優しいその手も、
私の物になんてならないのに。
ならないならいらないよ、そのままそっと私の視界から消え去ってしまえばいいのに。
どうしてこんなにも気にかけてくれるの、かまってくれるの。
そうして話しかけられたら、私、勘違いしちゃうじゃない。

 情けない音を立てて鼻をすする。涙は地面に落ちないように手の甲で拭う。
そんなごしごししてると腫れるから、と彼は私の手をとって指で涙をそっと掬う。
綺麗な球体が彼の指にとどまって、きらりと光る。
泣きじゃくりながら、ああ、私もこの球になりたいなんて、
似合わないことなんかが頭の中に浮かんでは消える。
まるで決壊が破裂したかのように止まらない涙は、
彼がやさしく頬を伝うそれを拭ってもとどまる事をしらない。
むしろ勢いを増すばかりだ。
幸いなことは、大声を出して泣いているところを彼に見られなかったことだろう。
いや、ちゃんと誰かが来ない事を知ってこの場所を選んだのだ。
しかし彼は(ようやく泣き止みそうになった)私を見つけて、
目を丸くして飛んできたのだ。

 どうしたんだ、痛いのか?そんな問いに心が痛いよ、なんて頭の中に言葉が浮かぶ。
もちろん口にすることのない言葉だがやけに心に反響した。
じゅくじゅくと膿んだような痛みが滲み涙がこぼれる。
ああ、辛いよ、エルク。私、辛いんだよ。
独りよがりの痛みを抱えて、それでも見せるまいとひた隠しにしていた。
隠している割には気がついてほしくて、でも気付いてほしくなくて、
相対した気持ちがぐるぐるとリーザの身体を駆け巡る。
好きだなんて言えたらいいのに。言えっこないけど。

 リーザはエルクの服の裾をつまむ。
エルクはそれを邪険に払うではなく、そっと手を包み込むように握って、
片方の手で泣きじゃくっている彼女の頭を撫でてやる。
こんなとき、気のきいた言葉なんて出ないけど、
エルクはそう前置きして言葉を続ける。
リーザも涙を溜めた両目で、彼の顔を見上げる。


「俺たち相談できない間柄じゃないだろ、こんなんになるまで無理するなよ、
 なにかあったら頼ってくれよ」
「エルク……」
「それにほら、俺たち親友じゃねえか、言いにくい事でも言ってくれていいんだからな」


 そのカテゴライズから抜け出したいんだよ、なんてこと言えっこないから、
リーザは彼の言葉にただ頷くだけだった。
きっと彼にはこの気持ちは一ミリも通じてないんだろうな。
それでもいいの、私が勝手に好きになっただけだから。
でも、今だけ、今だけはこうして彼の優しさに甘えてもいいでしょう、神様。