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会社パロディのアソートSS【エルク+アレク】

「アレク、お疲れさん」
「エルクさん、わ、どうしたんですかこれ!」
「今日のプレゼン頑張ってただろ」


 エルクが持っていた缶コーヒーを一缶手渡すと、
アレクは少し照れたように笑って、見てたんですか、と呟いた。
浮かべている笑みには自嘲の色が浮かんでおり、少し悔しそうに拳を握りしめている。
エルクはそんな後輩を横目に自分のコーヒーに手を付ける。


「失敗しちゃいました、恥ずかしいとこ見せちゃいましたね」


 アレクのプレゼンは結果から言うと大失敗だった。
下調べしていたものが間違っていたらしく、社長の前で大失態を犯してしまった。
プレゼンに同伴していたアークからは厳しい叱咤を受けてしまったし、
本当に自分が情けない。
アレクはエルクから受け取ったコーヒーのプルダブに手をかける。
やけに明るい音を立てて、それは開いた。


「まあ失敗なんてあるもんだろ」
「それでも、やっぱり僕ってだめです」


 これ以上弱音を吐かないように、泣かないように、アレクは下唇を噛んだ。
そうでもしないと、ふつふつとわき上がる涙がこぼれてしまいそうだったから。

 エルクさん、僕もう自信がないです。
それでもぽろりと言葉がこぼれる。
恥ずかしいやら、悔しいやらぐずぐずと汚いなにかが、自分を蝕んでいく。
きっと僕の失敗は取り返しのつかないことになる。
沢山の人に迷惑をかけて、いろんな人を失望させて。
容易に出来る想像に押しつぶされそうになる。
アレクは缶コーヒーを一口飲んだ。
やけに苦い味が口に広がる。


「俺もな、よくプレゼンで失敗したんだよ」


 気弱になるな!なんて激が飛んでくるかと思ったが、
エルクの口から出たのはアレクが想像したのとは真逆の言葉だった。


「……エルクさんがですか?」
「そうそう、仕事から逃げ出した事もあったしなあ」
「なんか信じられません」
「そう見えるなら俺もちょっとは成長したんだろうな」


 ははは、とエルクは豪快に笑い飛ばすと、持っていたコーヒーを一気に飲み干した。
ふう、と一つ、大きな息を吐く。


「アレク俺はな、失敗したらその分成長できると思ってるんだ」
「でも、失敗したら皆に迷惑が」
「新人はかけてなんぼだろうが、あのなあ、失敗しない仕事なんてないんだぞ」


 それに新人の頃にいっぱい失敗しておけば、対策も学べるだろ。
俺たちだってフォローするから、お前らはのびのびと失敗すれば良いんだよ。

 思いがけないエルクの言葉にアレクのこらえていた涙がぽろぽろと落ちる。
エルクさん、僕、僕。
若干鼻声になりながら隣りに居る先輩の名を呼ぶ。


「沢山失敗して、成長しろよ、アレク」
「……はい!」