「ポッキーゲームって、なんですか?」
「なにいってんのあんた……」
「え、サニアさんは知ってるんですか?」
「し、知ってるけどなによ急に!」
「いえ、さっきトッシュさんが今日そういうことをする日だって」
「あら、トッシュお酒でも飲んでた?」
「あれ、シャンテさんなんでわかったんですか?」
ふふふ、全てお見通しなのよ。
シャンテはリーザに軽くウィンクを投げる。
お見通しってそりゃあそんな酔っぱらいの戯言聞いたら想像付くじゃない。
サニアは悪態を吐く。
そうなんですかー、リーザはそんな二人を見ながらふうと息を吐く。
酔っぱらいのトッシュから渡されたのはこの赤い箱。
中には3本の棒チョコが入っている。
うっすらとだが、これで遊ぶものだ、ということ位は予想がつく。
でもどう遊ぶのだろうか。
チャンバラでもするのかしら、これで?
食べ物を粗末にしちゃいけないんじゃないかな。
思案巡らせるリーザの手から素早く棒チョコを一本ひったくるシャンテ。
あっ、とリーザが声を上げると、シャンテは悪戯に笑みを浮かべた。
「お手本見せてあげよっか」
「うわあ本当ですか?」
「ちょっとやめなさいよ」
「あらサニア、やる?」
「や、やるわけないでしょ!」
「あ、なら私がシャンテさんと」
「まま待ちなさいよ!それはちょっとどう考えてもおかしいでしょうが!!」
あまりのサニアの取り乱し様にシャンテは苦笑する。
そんなこれはただのお遊びじゃない。
そういうとシャンテは遠くの方に佇んでいるシュウに声をかけた。
シュウは彼女の呼びかけに気がついて、何事かと早足で歩いてくる。
「あーあ、もう知らない」
「シュウさんとやるんですか?」
「ふふふ、よく見ておきなさいよ」
なんだ、と首を傾げるシュウにシャンテは棒チョコを差し出す。
「ポッキーゲームしましょ」
「なっお前はまたしょうもない事を……」
「いいじゃないほら、はいあーん」
そう穏やかに言いつつもシャンテは無理矢理シュウの口にポッキーを突っ込む。
そうしてチョコの端に口を付けてすいすいと食べ進め彼の口元ぎりぎりで棒を折る。
あまりの鮮やかな手腕に見惚れてしまったサニアと、どうしていいか棒立ちのシュウ。
そして、ようやくこのゲームの意図に気がついたリーザは
恥ずかしそうに両手で顔を押さえた。
「ごごごめんなさい私まままさかそんなそんなものとは知らずに!!!」
「だからやめとけって言ったじゃない」
「あら?いいじゃないねえシュウ?こんなの子どもの遊びよね?」
「……便乗するお前もどうかと思うが」
呆れて肩をすくめるシュウだがどうやら怒ってはないらしい。
はあはあオアツイことで。
軽く悪態をつくと、サニアは未だ硬直するリーザに話しかける。
「私にも一本頂戴」
「え!サニアさんもするんですか?!」
「しないわよ!ばっかねえ普通に食べるだけよ!!」
ひょいとひったくって口に含むサニア。これで残りは一本になってしまった。
「で、トッシュからはなんて言われたの?」
「あ、あのエルクと、その……すれば、みたいなことを」
「あっらあちょうどいいじゃないほらそこにエルクが」
「え!え!でも流石に私にはちょっと」
ふるふると首を横に振るが、シャンテは止まってくれそうにない。
彼女は慌てるリーザをよそに大声でエルクの名を呼ぶ。
気がついたエルクはなんだなんだと駆け足で寄ってくる。
こういうところは似てるのね、とシャンテは嬉しそうにシュウとエルクを見比べる。
「なんだ」
「駆け寄ってくるところがそっくりと思って」
「俺はあんなに騒がしくない」
「どうかしらねえ」
シャンテが意味深に笑っていると、やってきたエルクが訝しげに彼女を見つめる。
「なんだよ、いきなり」
「リーザが用事だって」
「え!しゃ、シャンテさん!!」
「なんだよなんだよ、隠し事か?」
サニアはもう我関せず、とでも言うように読書に耽っていた。
しかしちらちらと様子を見る限りやはり気になるのだろう。
シャンテも椅子に座って事を見届けることにするらしい。
綺麗な笑みを浮かべてじっとリーザとエルクを見つめている。
リーザはと言うとじっとり汗ばんだ手で箱を握りしめていた。
棒チョコはあと一本。
ここでなにもないよエルクったらもう、なんて言えたらいいのだけれど
とてもじゃないけどそんな雰囲気ではない。
はじめは無邪気になんだようと言っていたエルクも神妙な顔をして、
もしかして俺に言いにくいことか?なんて悩み始めている。
ああ!どうすればいいの神様!!こんなことなら言わなきゃよかった!!
リーザは決意したように棒チョコを一本くわえると、
耳まで真っ赤になった顔をエルクに突き出した。
「ん!」
事を察したエルクは二歩たじろぐ。
これってあれだよな俗にいうポッキーゲームだよな、え、なにこれがしたかったのか?
一瞬取り乱してしまったが、エルクは目線をリーザから背けて頭を回転させる。
どうせシャンテにでもからかわれたんだろうな。
おっさんかもしれねえけど、
それで断れない雰囲気になっちまってこうなったってことか。
ちょっと可哀相だし適当に折って終わりにしてやるか。
冷静に事を見つめ、そして穏便に事を進めようとして再度彼女の方を見ると、
少しばかり緊張でぷるぷる震えた彼女の顔が目前に。
こ、これはちょっと待て、ちょっとまずくないか。
え、なにこれあれ本当にき、キス待ってるみたいじゃないか。
え、ちょっと俺保てる?俺は俺自身を保てるのか?
これ、これは、これは!まずい!!
エルクは棒チョコを指でつまむと、勢い良くそれを折った。
隣りからは落胆の声が聞こえる。
「え、エルク……?」
「な、なんだその、こういうのはもうちょっと、大人になってからな……?」
「あのそのごめんなさい私」
「いいよいいよ、また何年後に、な」
そっとリーザの頭をなでてやる。と、その瞬間シャンテから声が上がった。
「やっだそれプロポーズ!プロポーズなの?!」
「う、うっせーよ!だいたいテメエがリーザをけしかけたんだろうが!!」
「私じゃないわよートッシュよトッシュー」
「同じようなもんだろだいだいなあ!」
エルクがシャンテにずんずん歩いていく中、
リーザは恥ずかしくて身を小さく縮こまる。
両の手で頬を挟み、あああ、と声にならないうめき声をあげた。
「リーザ、リーザ」
「さ、サニアさんー、私もう恥ずかしいです」
「あのときさ、本当にしてたら……どうしてた?」
「も、もうそんな意地悪言わないでくださいよー!!」