ククル「あああ!だれよこの荷物!」
アーク「あ、それ俺の……」
ククル「アークの?!信じられない、なにか垂れてるし!なにこれ!!」
ポコ「ううん、ねばねばじゃないかなあ」
チョンガラ「この状態でも使えるんじゃろか」
ポコ「素早さは下げてくれそうだよね、
だってククルさっきからアークの袋もって固まってるし」
チョンガラ「おおお、垂れとる垂れとる、どれだけねばねば突っ込んどったんかの」
ポコ「この前ルワジの森に行ったからねえ、
適当な袋に採ったねばねば突っ込んだらアークの袋だったってオチじゃないかな」
チョンガラ「そうだとしたら不憫でしかないのう」
ククル「そういったわけで!荷物の整理をします!全員!!」
アーク「別にいいんじゃないか個人でやれば、
あっちょっと睨まないで嘘ですごめんなさい」
ククル「そもそもアークの袋から緑色の液体が垂れてたのが発端じゃない、
ほら!アークから見せる!」
アーク「おいちょっ」
ククル「大体見られても恥ずかしいものなんてないでしょ!
それに乾かさないといけないしうっわ緑色」
トッシュ「鮮やかだな」
ゴーゲン「新緑じゃの」
ポコ「そ、その良い事あるよ!」
アーク「ちょっと空しくなるから一旦皆黙ってくれるか」
ククル「へえ、案外整理されてるのね、うわあ本までべっとべと」
イーガ「凄まじいな……」
ポコ「この勇者の証装備したら逆に素早ささがるんじゃないの?」
アーク「いやそんな事はないだろう多分、確証はないけど」
トッシュ「試しに装備して模擬戦でもやっか?相手してやるぜ」
アーク「流石にこんなべとべとしたもの装備したくないぞ、俺……」
チョンガラ「しっかしちゃんと整理されとったんじゃの、ねばねば以外は」
ポコ「いやあ本当にアークって綺麗好きだよね、ねばねば以外は」
ククル「そもそもねばねば入れたの誰よ、アーク自分で入れたの?」
アーク「必要最低限は持ってたけど、こんなに入れた覚えないけどなあ」
ポコ「(必要最低限ってどのくらいなんだろうなあ)」
ククル「なら次はチョンガラのね、うわあ埃っぽい!」
チョンガラ「埃っぽいとはなんじゃ!どれも大切なお宝じゃぞい!」
ゴーゲン「ほうほう、ほほーうこんなものまで」
トッシュ「おいじじい絶対判ってないだろ」
ポコ「あれこの小袋はなに?」
チョンガラ「それはケラック達のご飯じゃ」
ククル「こっちの入れ物は?」
チョンガラ「それはモフリーのおやつじゃな」
イーガ「この袋はなんだ?」
チョンガラ「それはオドンのご飯じゃよ」
ポコ「(おかんだ)」
ククル「(おかんがいる)」
ククル「次はゴーゲンの荷物を見ようかしら」
ゴーゲン「ほいほい、これじゃよ」
ククル「うわあ難しそうな魔導書!」
ポコ「それとおせんべい」
イーガ「ほう、これは薬草か」
トッシュ「んん?これは薬草じゃなくて茶っ葉か?」
アーク「なんだか乱雑だなあ、ちゃんと整理しなきゃ」
ゴーゲン「ふぉっふぉっふぉ、ワシにはちゃあんと見分けがついておるから心配ない」
ククル「ううん、本人がそういうなら、ああでも難しそうなものがたくさんあるわね」
チョンガラ「くすねたらお金になるかの」
トッシュ「酒代か……」
ゴーゲン「お前さん達の悪事とワシの魔法どっちが早いか勝負じゃな」
ククル「アーークーーー!今日の晩ご飯二人分減るってーーーーー!」
チョンガラ「冗談!冗談に決まっとろうが!!」
ククル「次はトッシュのね!あら、これだけ?」
トッシュ「んな女子供じゃあるまいし、この剣と徳利さえあれば問題ねえよ」
イーガ「ならトッシュ、
足りないものがあったら逐一私のところへくるのはやめにしてくれないか」
ポコ「そういやこの前爪切りがない、って借りに行ってたよねえ」
アーク「そういえば鏡がないとも騒いでたな」
ククル「私のところにも髪ゴム借りに来てたわよね」
チョンガラ「ちょっとは持った方がよさそうじゃのう」
トッシュ「うるせえ!んな細々したもんいちいち持ってられっか!」
ポコ「(それにしても借りるものがなんかもう、ねえ)」
ククル「(そうねえ、お泊まりセットとか買ってあげた方が良いかしら、
ヘアピンとか化粧水とかはいったやつ)」
トッシュ「おいこらこそこそ言ってんの全部聞こえてっからな、お前ら」
ククル「なんだか楽しくなって来ちゃった!なら次はイーガのね!」
イーガ「ふむ、私が持っているのはこのくらいだが」
アーク「耳かき爪切り、ソーイングセット……」
トッシュ「おいこっち見んな」
イーガ「なにがあるかわからんからな、用心に越したことはない」
チョンガラ「確かに、これだけあれば問題なかろうなあ」
アーク「細々したものが多いのに、しっかり整理されてる。流石イーガだな」
ポコ「本当にしっかりしてるよねえ」
イーガ「身の回りを整理するのも修行の一環だからな」
ククル「そうねえ、私も見習おうかしら」
ポコ「あれ、ククルのそんなに汚いの?」
ククル「えっ私のはその、良いじゃない別に!」
ポコ「よくないよ!ほら出して!」
ククル「わちょっと一応女の子の荷物なのよだめよあー!わー!!」
トッシュ「こりゃあひでえ……」
チョンガラ「いやあこれはちょっとないですわな……」
アーク「ぐっちゃぐちゃじゃないか!」
イーガ「なんだこれは、まさか」
ポコ「みなぎる果実……?いやもはやしびれるりんご?」
ククル「わーんもういいじゃない!苦手なのよ!整理整頓!!」
ポコ「アークこれ食べてみてよ」
アーク「いやレベル下がりそうだからちょっと……」
トッシュ「麻痺るんじゃねえか、ちょっとやってみようぜ」
イーガ「回復果物も、なにやらこれは」
ゴーゲン「放っておいたらねばねばになりそうじゃのう」
アーク「ククル、皆の点検おわったらイーガに教えてもらった方がいいんじゃないか」
ククル「そうします、うう、もう恥ずかしい……」
ポコ「最後は僕のだね、別に面白みもないと思うけど」
トッシュ「嬢ちゃんのが十分面白かったからな」
ククル「それ以上言うとこれ料理につっこむわよ」
チョンガラ「それはしびれるりんごか?」
ククル「み な ぎ る か じ つ で す ! !」
アーク「はいはいそこまでにして、にしてもポコのは予想通りというか」
ポコ「でへへ」
イーガ「これは楽器の手入れの道具か、炊事の道具も一挙に管理しているのだな」
ゴーゲン「これは点検の必要がないくらい綺麗じゃのう」
アーク「手入れの道具ってこんなに種類があるんだな」
ポコ「たくさん使うからねえ、楽器」
ククル「とまあこれで全員の見たけども」
アーク「綺麗にしましょう、ってことだな、ククルはあとでイーガに指導をうけること」
ククル「はあい」
トッシュ「いやあ面白いものがみれたな」
ポコ「まさかねえ、唯一の女の子がねえ」
ククル「い、今に見てなさいよ!
イーガの指導を受けて綺麗に整理してやるんだからね!!」
ゴーゲン「空回りせんといいが」
チョンガラ「期待せんで待っとるよ」
ククル「むかああ!!待ってなさいよ!本当に!本当に綺麗にするんだから!」
***
さて、昼の喧噪も一段落。
太陽が落ちて月が昇った頃、イーガの部屋にノックの音。
ククルの荷物から出て来た様々なゴミを処理していた手を止めて扉を開ける。
そこにはすまなそうな顔をした赤毛の男、トッシュが酒瓶を片手に立っていた。
イーガはふふ、と笑みをこぼして入るように促す。
トッシュは周囲を一瞥して、誰もいないのを確認して部屋に入った。
「来る頃だと思っていた」
「悪いな、まさかアークの袋だったなんてな」
「確認してないお前が悪い」
口を尖らすトッシュにイーガはぴしりと言葉を投げる。
その正論にトッシュは口をつぐんで、申し訳なさそうに小さく謝罪の言葉を呟いた。
「……悪かったよ、でも黙ってくれてありがとうな」
「なあにお前の悪事を隠す事にも慣れてきたさ」
「な!そこまで悪さしてないだろう」
「この前だって飲み過ぎたお前の」
「おおおイーガ!俺も手伝うぜ掃除」
トッシュは冷や汗をかきつつそそくさに掃除をはじめる。
そんな彼の姿を見てイーガはやれやれと肩を竦めて再度掃除を始める。
あらかたは片付けてはいたのだが、
トッシュが手伝ってくれるなら夕食までには片付くだろう。
しかし年頃の少女の荷物から出て来たとは思えないような
げてものの数々に頭痛を覚えたのだが、
こうしてみるとメンバー個人個人持っているもの、
大切にしているものはもちろん違っていて、
今日は新たな一面を垣間見る事ができたのだ。
そう思うとそこまで悪い気はしないものだ。
それもこれも、
全てはこの男が適当に戦利品を袋に放り込んだ事から話は始まるのだが。
「ちゃんと謝っておけよ、アークに」
「へいへい」
こいつが夕食までに謝らなかったら、暴露してやろう。
そのときの反応もまた楽しみではあるな。
せっせと掃除に励む後ろ姿を見ながら、イーガはにやりと笑みを浮かべた。