お前悪魔をなめてんのか?
小馬鹿に笑ったマモンのことを、ふと思い出した。
窓の向こうに煙る雨。赤、青、黄色。色とりどりの傘の花たちが右へ行ったり左へ来たり。きっと皆家路へ急いでいるのだろう。溜まりはじめた水たまりが踏みつけられ、しぶきを上げる。銘々苦々しい顔をする悪魔たち。私はそれを、ぼうっと眺めていた。
「面白いものでもあったか?」
雨宿りをしようと言い出したのはルシファーだった。雨が降り始め、丁度いい具合に喫茶店があったので、私たちはそこに入ることにした。俺が提案したのだからと奢ってもらったこの店一番のコーヒーは苦みが強くて、少しばかり大人の味だ。しかし彼が砂糖もミルクも入れないので、私も同じようにブラックで味を嗜む。……とても苦い。
「いや、みんな急いでるなあって」
雨で隔絶された世界のように、喫茶店の中は穏やかな空気で満たされていた。ピアノの音楽のせいかもしれないし、時折聞こえる豆を挽く音のせいかもしれない。ゆったりとした時間の中で、ルシファーはコーヒーを啜る。私もまた、コーヒーをちびちびと飲む。
マモンは言っていた。雨よけの魔法くらい使えるに決まってんだろ、と。なんならベールがどこからともなく傘を出したのも見ているし、重ねて言えば雨を晴らす方法だってあることを、サタンには教えてもらった。
それでも雨は降り続いているし、私たちは雨宿りをしている。
雨粒が叩くように窓ガラスを伝う。「止みそうに無いな」とルシファーは笑った。