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魔女の番犬

 ソロモンに「なら魔女になればいい」と言われたので、私の進路は『魔女』という奇天烈なものとなる。とはいえ魔女と言っても、薬草を調合して人を癒やす薬師であったり、未来を見て人を導く占い師であったり、ぱっと思いつくであろうそういった『ニュートラル』なことができるわけではない。残念ながら私は魔法が使えないのだ。唯一出来ることは(ソロモンから借り受けた魔力で)悪魔たちを召喚することくらいだ。
 得意なことは人海戦術。今日も雑居ビルの二階を借り受け、現代の魔女として依頼を待つ。
 
 しかしそんなポンコツな魔女であっても、人伝に依頼はやってくる。大小様々、探偵に頼むようなことから、大がかりな血生臭い依頼まで。大体彼ら悪魔の魔法が解決してくれるので、その評判が人を呼び、依頼を呼ぶ。
 今日の依頼も、滞りなく成功だ。臨時収入をグリムに換えてマモンに渡せば、彼はひったくり札束を楽しそうに数える。お金が好きなマモンは大体呼べばいの一番にやってきてくる、優秀な助手といったところだろう。「なあもうちょっと増えねえの?」との声に「増えません」と私は告げる。
「ところでマモン」
「なんだよ」
「依頼人がね、女性しかやってこないのはなんでだと思う?」
 不思議だよねえ、と私が継げば、彼の肩が大きく跳ねた。なるほど、ビンゴか。おかしいと思っていた。魔女になった当初は圧倒的に男性客が多かったのに、ここ最近女性客の比率がおかしい。例えばレヴィだとかベールだとか、他の悪魔が居るときはそうでもないけれど、マモンが事務所に控えたら必ず、客は女性客だけとなる。
 理由の見当は付いているけれど、注意していいものか。いや、ここで妙な噂を立てられたらそれこそ食いっぱぐれてしまう。自営業は評判が命。とくに『魔女』なんて、突飛な看板を掲げているなら、なおさらだ。
「……あのね、一応言うけど」
「……なんだよ」
「お客さんと、寝ちゃだめだからね?」
 アスモになら伝えやすい言葉だけれど、マモンに言うと少し気恥ずかしい。そしてマモンも動揺を隠さずに「は?! おま、おまえなあ!」と声を荒らげる。反応は初心だけれど彼は強欲の悪魔だ。(そしてパーティー・ピープルなのである)節操なしに手を出すとは思えないけれど、そういう可能性だってある。
「おまえはほんっと……昔から俺の苦労をわかんねえやつだなあ?!」
「苦労……?」
「うっせばーか! 仕事は終わりだろ! もう帰る」
 そう吐き捨てると、彼は靄の奥へと消えてしまう。ちょっと! とかけた声は虚空に響き、受取手のないまま部屋の空気に溶けていく。
 一体何なのだろうか。よくわからないけれど、手を出していないならそれでいい。なぜなら自営業とは、評判が命なのだから。