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ルシファーに『可愛い』をもらいたい留学生ちゃんの話

「随分と可愛らしいものを食べてるんだな」
 細長いグラスに、サイダー。上にアイスクリームと冷蔵庫にあったフルーツを飾れば、即席のクリームソーダの完成だ。魔界という異文化でおこたにアイスは望めなくとも、同じような環境は作り出すことはできる。誰も居ないリビングルームでこっそり作ったクリームソーダ。細長いグラスの中には気泡の揺れる『涼』が鎮座している。
 氷とアイスが重なり冷え固まった部分を削りながら食べていたら、そんな声が飛んできた。ルシファーだ。どうやら彼もティータイムらしく、彼はトレーに置いたカップをソーサーごと机の上に置くと、私の隣に腰を下ろした。
「可愛いのはクリームソーダだけ? 私は?」
 良く出来た味に気が大きくなっていた私は、ルシファーにそう声をかける。そんな返答は想定していなかった彼は一瞬ハンドルに回した指先を止め――平静を装うように指をかけ、紅茶を一口あおる。
「アスモみたいな事を言うな」
 そうして紡ぎ出した言葉はそれだった。私はサイダーにアイスクリームを溶かしながら「ええ」と不満を唇から漏らす。しかしルシファーの鉄仮面は剥がれない。なんとなく悔しくなった私はひと匙アイスを掬い「可愛いって言ってくれたら、一口あげます」と彼に匙を向ける。ぴくりと、ルシファーの眉が動いた。しまった、やりすぎたか。
「……調子に乗るなよ」
 食器の重なる音。腕が伸びてきたと思えば、匙を持つ手首をがっちりと捕まれた。えっと言葉を震わせる前に、彼の顔が近づき――唇に、ぬらりとした感触。
 離れる彼の顔に、ちろりと舌が見えた。
「口元にクリームがついていた」
 なんてことなく彼は笑う。手を離されて、そのまま何事も無かったかのように彼は紅茶を啜る。
 私はというと行き場の無い匙をすごすごと戻し、黙ってそれを口に運んだ。してやられた。妙に生々しい感触だけが肌に残り、アイスの味なんてわかりはしない。
 暖炉の火のはぜるリビングルームに、からんと、氷が溶けた音が小さく響いた。