DropFrame

snowjam

『どこにいんだよ』
「だからもう少しで着くってなんども言ってるでしょ」
『だから迎えにいくつってんだろ』
「大人しく待っててってば」
 ディスプレイ越しに見える自分の姿。前髪はおかしくないだろうか。服装は釣り合うだろうか。そそくさと指先で前髪を触れば『いいじゃねえかこのあたり覚えたんだし』と端末から声がする。そういう問題じゃないんだって。
 横断歩道の信号を待ちながら、まだ見慣れないつま先を眺める。ワインレッドの、真新しいブーツ。ちゃんと磨いてきたし、服とあっているものを買ったはずだし、なんら問題ない。
 人の波の中もう一度ガラス窓で自分の姿を確認する。『なあ』とマモンの声。「もうすぐ着くから」と口にすれば、ふわりと白い明かりが灯った。
 年を跨いだこの季節は、日に日に空気が寒くなる。首元をマフラーに埋めれば端末の向こうからくしゃみの音。「風邪引くからお店に入ってて」と伝えれば『おまえが来るまで買い物してていいなら待つけどよ』と拗ねたような声色。それはあまりよくない。
 信号が変わる。車が止まる。塊に鳴って動く人混みの中、歩幅を合わせて駅前へと向かう。
 朝の占いも三位だったし、お気に入りの香水も付けてきた。ここに来るまでの信号だってほとんど青だったし――さっきは引っかかってしまったけど。……なんて、小さなジンクスを心の中で積み上げる。
『なあ』
「うん」
『早く会いてえんだけど』
「うん」
 わたしも。唇で形作る言葉は淡く消えていく。ほんの少し早くなる歩調。風で揺れる前髪を指先で整えながら「もうちょっとだけ待っててね」と言葉を繰り返す。どうか素敵に見えますように。心の中で、何度も唱えながら。