DropFrame

さよならハッピーエンド

「人間一匹程度手元に置いておくなんてワケねえんだよ」
「うん」
「最悪形なんて保っていなくたっていい。皮を剥いで、魂だけ抜き取って小瓶にでも詰めてやれば誰にも盗られねえし」
「そうだね」
「痛いのが嫌だっていうのなら閉じ込めてやってもいい。お前の部屋でも、俺の部屋でも、それこそルシファーがベルフェを隠したように、隠し部屋を作ればいい」
「だから?」
 威勢のよい言葉とは裏腹に、マモンの声は震えていた。不思議な話だ。私よりも何十倍も生きて、気高くて、賢く、そして強い彼なはずなのに、まるで助けを乞う子犬のように小さく「だから」と「行くなよ……」と言葉を零す。そしてマモンは泣き出しそうな顔を浮かべて胸の内に入る。背中を撫でてやれば、微かな鼻音が、空気に溶けた。
 それでもしょうがない。いつだって物語がハッピーエンドで終わるとは限らない。明けない夜はないし、生きているものはいつか死ぬし、はじまったものには終わりがある。
 いつか続きが紡げるといいね。彼の頭を撫でれば「気安く触んな」と彼は唸る。このまま掠ってくれたらいいのにな。そんなご都合主義な展開が浮かぶけれど、意気地なしな私たちは、ただただ身を寄せ合うことしかできない。