DropFrame

ねぼけた留学生と、なぜか隣に寝ててねぼけてるマモンの話

 閉め忘れた窓が風を注ぐたびに、白いカーテンが翻り星空をちらつかせた。常闇の魔界は朝も夜も暗いから一日の境界が曖昧で、ただひっそりと静まりかえる館だけが、今が夜であることの証明だった。
 音を立てずに起き上がれば、まだ眠っていたい身体が瞼に重しをかける。小さな布ずれの音。いつの間にか消されたランプ。窓を閉めようと手に体重をかければ、ベッドが大きく軋みを上げた。腹に体温。太い腕が回されて、背中に温もりが灯る。
「置いてくなよ」
 ひとつ、暗闇に言葉が溶けた。背骨に鼻が擦り、甘えるように唇が沿う。消されていた電気は彼の仕業か。揺れる風に空がちらつく。二階のこの部屋からは星がよく見えるなと、寝ぼけた頭でぼんやりと思う。
「なあ」
 催促するような言葉。音を立てて唇を寄せられて、回す腕の力は強くなる。おそらくマモンも寝ぼけているのだろう。いつもよりも込める力が強いから、ほんの少しだけ痛みが伴う。しかし寝込みを襲う(この場合すでに襲われているのかもしれないけれど)わけでもないらしく「答えろよ」なんて言葉も寝ぼけていて曖昧だ。
 愛撫というよりも暖を求めるように。逃がさないというよりはただ抱き枕を寄せるように。鼻を、顔を、頬を、背中にこすりつける。そのたびにくすぐったい私は「うう」とうめき声を上げて、眠たい瞼を瞬かせる。
「おまえは」
「うん」
「おれのこと」
「うん」
「すきか?」
「うん」
 あくび混じりの声が、静まった部屋に溶けていく。ひらひらと誘うように揺れるカーテンに、窓を閉めなきゃと私は思う。しかしマモンの拘束は強固で、それを振りほどくほどの力も無い。
 そのままマモンはベッドに倒れて、私も一緒に横になる。柔らかなバウンドの中、きゅうとマモンは私を引き寄せた。そうして寒がるように掛け布団をいそいそと掛ける。大きなあくびが聞こえる。釣られるように私も、あくび。
 窓の向こうではカーテンが揺れる。月明かりに冷やされた風が、部屋の中に流れていく。その中でお互いの体温をくっつけながら、私たちは夢の淵を歩く。言葉にならない音と、意固地が消えた言葉を携えながら。