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雨催い

 雨催いの空は重い。私は透明な傘を持つ。隣を歩く彼は、傘を持っていない。
 館を出る前、降らねえだろと彼は言った。この魔界には天気予報なんてものはないから、空気の湿り気と長年の勘だけが天気を予想する材料だった。降られたくない兄弟は傘を持ち、降らないと信じている兄弟は傘を持たずに館を出る。私は前者で、マモンは後者だ。彼は踵で石畳を叩きながら、傘を持つ私を笑う。この天気は夜まで持つと。帰るまでの荷物が一つ増えたとけらけらと笑う。

「ならこうしよう。もし雨が降ればマモンが、雨が降らなければ私が昼ご飯をおごるの」
「は? なんでそうなんだよ」
「もしかして自信ないの?」
「あるに決まってんだろ! 約束だからな!」

 売り言葉に買い言葉。安い挑発にも乗る彼は泣き出しそうな空を見上げて「ぜってー保つ」と雲を睨み付ける。私も傘を持ちながら空を見上げた。雨催いの空。湿気を孕んだ雲は昏く広く、空を覆い尽くしている。
 どちらにしても、一緒にご飯が食べられる。
 そんなことなど彼は知らない。目下の賭けに目を輝かせて「学食で一番高いもの頼むからな」と息巻いている。雨が降っても降らなくてもどちらでもいい私は「そうだね」と「私もそうしようかな」と言葉を継いだ。