暗く落ちた照明。手の甲でカーテンを押せば、ガラス窓の向こうには星空が広がっていた。月は絹糸のように細く、等級のちがう星々は輝き放って夜空を彩っている。
イヤフォン越しには元気な声。時差があるのか、まだ寝る時間じゃないのか、マモンの話は尽きることがない。生真面目な長兄が言い渡した順番性の電話はほぼほぼ守られてはいたものの、1度の電話にかける時間は、マモンのそれが断トツに長かった。
「で、ベールの野郎が俺の分の飯まで食いやがって」
「……うん」
微睡みが襲う。あくびと、重くなる瞼と。布団に潜り込めば暖かな温もり。蹴飛ばされ、欠伸をまた零せば「寝てもいいからな」と存外優しいマモンの声。
「適当に切ってやるから、お前は寝てろ」
「切ってから寝るんじゃなくて?」
「ばーか。俺様が寝物語を喋ってやってんだからちゃんと聞いとけ」
それでな、と彼は言葉を続ける。魔界の寝物語とは随分と身内的で、そして取り留めのない話でーー浮かぶ彼らの楽しそうなやり取りに、頬が緩む。
おやすみ、と声が聞こえた気がした。目を開けるのも億劫で、私はシーツを軽く握る。続く話。先程よりも声を潜めて、彼の声が降り積る。私はその欠片を握りしめて、夢の中へと落ちていく。